[価格カルテル案件]日系自動車関連メーカー12社に対する判断から読み取れるもの
【案件の概要】
2014年8月20日、中国国家発展改革委員会(以下「発改委」という)は、公式サイト(http://www.sdpc.gov.cn/xwzx/xwfb/201408/t20140820_622759.html)にて日系自動車部品メーカー8社、および日系ベアリングメーカー4社において独占禁止違反行為(カルテル)があったとして、合計12億3540万元(約210億円)の課徴金を科すと発表。この額は、中国における独占禁止案件としては過去最高となる。
発改委の決定では、次のような事実が認定された。
[自動車部品メーカー8社」
2000年1月から2010年2月まで、各社は競争を回避し、最も有利な価格で受注を得ることを目的として日本で頻繁に話し合いを行い、相互に協議のうえ価格協定を数回にわたって締結し、これを実施した。
[ベアリングメーカー4社]
2000年から2011年6月まで、各社は日本ないし上海でアジア研究会等を開催し、中国市場におけるベアリングの値上げ方針、実施のタイミング及び値上げ幅等について事前に協議を行い、これを実施した。
発改委は、12社による価格カルテルは市場競争を排除・制限するものであり、中国における小売メーカー、及び消費者の正当な利益を侵害したものとして、自主的に関連状況を報告、かつ重要な証拠を提供したとして、課徴金免除の対象となった2社を除き、10社にそれぞれ前年度売上高の4%から8%相当の課徴金を科した。
中国当局に独禁法違反と認定された12社と各社別の制裁金額
分類 |
社名 |
制裁金額 |
制裁基準 (前年度売上に対する割合) |
考慮要素 |
部品 メーカー |
日立オートモティブシステムズ | 免除 |
|
最初の自主的報告者であり、且つ重要な証拠を提供。 |
デンソー | 1億5056万元
(約25億円) |
4% |
2番目の自主的報告者であり、且つ重要な証拠を提供。 | |
矢崎総業 | 2億4108万元
(約42億円) |
6% |
1種類の商品についてのみ、価格協議を実施。 | |
古河電気工業 | 3456万元
(約5億7000万円) |
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住友電気工業 | 2億9040万元
(約48億円) |
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愛三工業 | 2976万元
(約5億円) |
8% |
2種類以上の商品について、価格協議を実施。 | |
三菱電機 | 4488万元
(約7億円) |
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ミツバ | 4072万元
(約6億8000万円) |
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ベアリング メーカー |
不二越 | 免除 |
|
最初の自主的報告者であり、且つ重要な証拠を提供。 |
日本精工 | 1億7492万元
(約29億円) |
4% |
2番目の自主的報告者であり、中国市場におけるすべての証拠及び販売データを提供。 | |
NTN | 1億1916万元
(約19億円) |
6% |
2006年9月アジア研究会を脱会したが、引続き中国向け輸出市場会議に参加。 | |
ジェイテクト | 1億0936万元
(約18億円) |
8% |
中国市場向けに、輸出市場会議を提案。 |
※なお、日立オートモティブシステムズ、および不二越については、自主的に関連状況を報告、かつ重要な証拠を提供したとして、課徴金が免除された。
※中国当局の発表資料に基づく。
【大地コメント】
[事案の分析]
中国における『反独占法』で禁止されている行為は、大きく分けて、以下の三類型とされる[1]。
(1) 事業者が独占合意を締結すること(水平的独占合意[2]と垂直的独占合意[3]に分けられる)
(2) 事業者が市場支配的地位を濫用すること
(3) 競争を排除ないし制限する効果のある、またはそのおそれのある事業者の集中。
本件では、このうち「水平的価格独占合意」にあたる価格カルテル、具体的には『反独占法』第13条第1項、『反価格独占規定』第7条第1号、第2号、第4号に違反したものと思われる。
『反独占法』 | 第13条 競争関係を有する事業者が次に掲げる独占合意を締結することを禁止する。
(1)商品の価格を固定し、又は変更するもの |
『反価格独占規定』 | 第7条 競争関係のある事業者が次に掲げる独占合意を締結することを禁止する。
(1)商品・役務の価格水準を固定し、又は変更すること; (2)価格変動の幅を固定し、又は変更すること; (4)約定した価格を使用し、第三者と取引の基礎にすること; |
一般的に、『反独占法』上の「独占合意」を認定するにあたっては、以下の要件を満たす必要があるとされる。
① 『反独占法』規定の行為類型に該当する合意、決定その他の協調的行為の実施
② ①の行為が、競争を排除又は制限するものであること
もっとも、米国反トラスト法において、価格協定や入札談合等は、競争への弊害が強いものとして、「当然違法」の法理が定着しているのと同様、中国においても、一旦価格協定を締結する行為が認定されれば、要件②については競争を排除又は制限する効果が実際に生じていたか否かににかかわらず、当然に違法との評価を受けるとされている[4]。
本件でも発改委の6ヶ月に及ぶ調査により、12社価格カルテルの実施したとの認定をもって、直ちに当該行為は違法と評価されたものと推察される。
[課徴金が免除された2社について]
報道によれば、今回当事者となった日系メーカーは、アメリカ、EU及びオーストラリア等でも、価格カルテルの疑いにより、当局から処罰を受けたことがあるとのことである[5]。今回、中国当局が反独占調査を開始させた背景には、先に欧米諸国において処罰を受けた企業が、中国における巨額の課徴金を恐れて、リニエンシーを利用し、中国当局へ報告を行ったのが、きっかけではないかとされる。
※リニエンシーとは
リニエンシーとは、独禁法の調査において、自主的に申告してきた者・企業に対し課徴金の減免を与える制度である(『反独占法』46条2項、および『反価格独占に関する行政法律執行手続規定』14条)。
[今後の見通しと対応策]
価格カルテルは水平的独占合意のうち、市場における自由競争に対する弊害が強いものとされるため、今後中国当局は価格カルテルに対してますます取り締まりを厳しくするものと思われる。特に、中国独占禁止法は、国外の独占行為であっても中国市場に影響が及ぶものについては、適用があるとされる(反独法2条)。このため国内外の、自動車関連以外の日系企業にとっても、独禁法対策は他人ごとではない。
独占禁止法に関わる案件は、その課徴金の額と社会的影響からみて、経営に与える影響が大きい。このため、外部の専門家の意見を確認すると同時に、現地スタッフに対しても中国の独占禁止法を周知の上、コンプライアンス義務の遵守・履行を今一度徹底すべきである。
[1]『反独占法』第3条
[2] 相互に競争関係にある者の間で行われるもの。価格協定など『反独占法』第13条
[3] 相互に取引関係にある者の間で行われるもの。再販売価格維持など『反独占法』第14条
[4] 商務部条法司編・尚明主編『反垄断法理论与中外案例评析』(北京大学出版社、2008年第1版)P78-79参照。
[5] http://news.xinhuanet.com/fortune/2014-08/20/c_126894547.htm
作成日:2014年08月25日