ネットショップのアカウント登録は簡単だが相続は難しい-専門家が立法化を呼び掛ける-
ネットショップは、アカウントの登録は容易だが、その相続は難しい。この問題についてウェブサイトごとに言い分が異なっている。専門家は早期に立法化し、バーチャル財産の帰属を明確化するよう求めている。
先頃、24歳の淘宝婦人服「クラウン」店の女性ネットショップオーナーの艾珺が急死した。この悲しみの中、家族はもう一つの難問に直面することとなった。艾珺が2年間、一生懸命に経営してきたネットショップのバーチャル遺産は、どうやって相続したら良いのだろうか?これはより多くの人々が、いつか同様の問題に直面するかも知れない。ブログにアカウント登録して、ブロガー同士で友情を温め、共に成長の日々を記録したとする。でも百年経過したら、これらのバーチャル情報は、どこへ行ってしまうのだろうか?
中国にはデジタル財産に関する専門の法律はない。取材に対し、QQ(中国最大のメッセンジャーサービス)、フリーメールサービス、ソーシャルネットワークサービス、家電量販店、ネットアミューズメントを含む十数社のウェブサイトからは、様々な回答が寄せられた。若干のNGOが既に行動を開始しているほか、法曹会の人々も関連当局が早期にバーチャル遺産のこうした法の隙間を埋めるように呼び掛けている。
【事件】
オーナーが死亡してしまったネットショップは、誰のものになるのか
今年7月17日、24歳の淘宝ネットの女性ネットショップオーナー「艾珺」は、家で過労のため急死した。あるメディアの報道によれば、艾珺が急死した後、そのネットショップは、ただちにシステムを閉鎖されたという。艾珺のボーイフレンドがショップの相続を試みたものの、淘宝側から拒否されたとのことであった。淘宝広報部の蔡女史は、この誤報について糾す必要があると述べた。「我々は、彼女のボーイフレンドからの訴えは受け取っていません。淘宝には財産相続権や分配権を奪う権利はありません。これらは司法機関が判決を下して初めて有効となるものです。ネットショップは、いずれも法律による保護を受けています。」また蔡女史の説明によれば、淘宝ネットのネットショップのオーナーである自然人が死亡した場合、そのアカウントを一時的に淘宝が監督・管理することになると述べた。
では、淘宝は艾珺の家族によるネットショップの新装開店をサポートしてくれるのだろうか?淘宝側の回答は、「裁判所の判断に従う」というものだった。「淘宝は、相続人が司法機関の要請に基づいて、必要書類を提供してくれれば、すぐにでもネットショップの相続手続きをいたします。具体的なステップとしては、裁判所からの判決書を受け、淘宝は裁判所の判断に従って、相続人へネットショップの譲渡を行います。判決が発効した時点で、淘宝は相続人をサポートして艾珺のアカウント情報を相続人のアカウント情報と交換します。」蔡女史は、このように述べた。
業界関係者によれば、相続や譲渡の問題は、結局のところネットショップのプラットフォームとネットショップオーナー間のネット小売に関する規則の問題だという。現在立法化が計画されている『ネット小売管理条例草案』の専門家グループの劉俊海副グループ長によると、当該『草案』では、すでにこの問題に注目しており、関連制度の完備を試みているとのことであった。
【調査】
ネットショップの譲渡には様々な困難が控えている
艾珺の死が多くのネット起業家に想起させたのは、死者か生者かに関わらず、ネットショップの譲渡は、普通の店舗の譲渡のようには簡単にできる事ではない、ということである。多くの第三者会社が、これまでネットショップ譲渡ビジネスに参入したことがあった。その相場は、ネット評価に基づいている。例えば、淘宝等での「1カラット」店の譲渡価格は350元、「2カラット」店の譲渡価格は600元、「クラウン」店の譲渡に至っては1万元もの譲渡価格になるとのことであった。
普通の店舗の譲渡には、契約書の締結が必要である。これとは異なり、ネットショップの譲渡では、契約文書を締結する必要はない。元のネットショップオーナーがネットショップに関する全書類を提供し、引継者がパスワードを変更し、当該パスワードを引継者の携帯電話に自動登録させ、デジタル証書を申請した後、元のネットショップオーナーに譲渡代金を払う。しかし、取引によっては譲渡代金の金額が大きいため、必要とあれば売買双方が面談して取引を行い、なお且つ譲渡契約書を取り交わすこともある。
あるメディアが暴露したところでは、ネットショップの譲渡が金になることに目をつけ、一部の利口なネット業者は、これを投資対象と見なして投資を行っているという。彼らは大量にネットショップを登録し、それから人を雇って「代わりにポイントを稼がせ」たり、「カラット数を引き上げ」たりして、ネットショップが一定の価値に到達してから、これを高額で譲渡しているという。しかし、こうした譲渡行為は、既に淘宝によって止められている。広報部によれば、ネットショップの譲渡、カラット数の引き上げ、代理人がポイントを稼ぐ行為は、いずれもネットショッピングサイトの正常な運営に著しい打撃を与える行為であり、発見次第、そのサイトを処分し、ネットショップオーナーが登録した銀行システムに不信用記録を残すとのことであった。従って、ネットに投資して起業したい者は、ネットショップの譲渡を選択するにせよ、「ポイント稼ぎ」を選択するにせよ、ともに大きなリスクが存在することとなった。
淘宝側のもう一つの心配は、ネットショップの登録情報は1度登録すると再度変更できないため、譲渡後でも譲渡前のオーナーがネットショップを回収できてしまい、譲受側がネットショップも失ってしまえば、譲渡代金も無くしてしまう可能性があることにある。また、譲受側がネットショップを利用して違法取引に従事した場合、元のオーナーも連帯責任を負うことになる。しかし、オーナーが死者の場合、ネットショップを回収することはありえないため、多くのネットショップオーナーは、現在の制度を改訂すべきであると提言している。尚、人々の関心の高い支付宝(アリペイ、淘宝のネット取引用決算システム)のアカウントについて、淘宝側は、支付宝のアカウントは相続できないと述べている。アカウント所有者が死亡した場合、その家族が法定相続人資格の証明を持って、淘宝の支付宝よりアカウント内の残金を取り出すことが可能だが、お金を引き出した後の支付宝アカウントは、強制的に取り消されるとのことであった。
【現状】
各ウェブサイトのアカウント相続についての説明はバラバラ
「私達が歳を取った時、最も寂しいことはQQを開けてみた時、多くの友人のアイコンが既に点灯しなくなっていることでしょう…。」これはミニブログ上で、多くのユーザーから共感を得た言葉である。百年後、私達のバーチャル財産は、どうなっているのだろうか?残念なことに、QQアカウントは、現在すでに相続できないことが明確化されていることである。「テンセント(QQの運営会社)とユーザー間が締結する利用約款によれば、QQアカウントの所有権は、テンセントに帰属し、ユーザーは使用権を保有するのみと約定されています。ユーザーが長期間使用しなかった場合、そのアカウントはテンセントによって回収されます。これは、インターネット業界の慣習です。」テンセント広報部の責任者は、QQアカウントは、法律上遺産相続の範囲に該当していないため、ユーザーは、これを個人財産として処理することはできないと告げた。
では、新浪ミニブログのアカウントはどうだろうか?責任者の回答は、「何とも言えない」というものであった。去年、新幹線事故が発生した際、生存者の伊伊ちゃんの両親は二人とも亡くなったため、新浪は、その事実を確認した後、伊伊ちゃんの母親のミニブログ「伊伊の成長記」を、家族に相続させた。また、復旦大学の于娟先生がミニブログ上に記録したガンとの闘病日記のアカウントは、その逝去後、彼女の友人が相続することとなった。京東商城とその1号店は、ユーザーが亡くなった場合、家族が店員に身分証明書を提供すれば、死亡者のアカウント及びパスワードを家族に提供すると述べた。
これに対し、ネットアミューズメント業界は、これがゲーム内のバーチャル経済システムに大きくかかわるため、アカウントの相続には慎重な姿勢である。「これまで、我々はゲーマーからバーチャル財産の相続権問題を提起されたことはありません。盛大ゲーム(ネットアミューズメント会社の名称)は、今後の業務においても実情に基づいて、ゲーマーと関連問題の確認に協力する用意があります。」盛大ゲーム側からは、このような回答があった。「魔獣世界」(ゲームの名称)を運営する網易は、「ゲーマーが不幸にしてお亡くなりになった場合、その家族は幾つかの方法を通じてアカウントを回収し、バーチャル財産を相続することが可能です。具体的な方法は、以下の通りです。ユーザーのアカウントがユーザー名及び登録バンドルメールアドレスという場合、その家族は、一般的にパスワードを変更するという方法でアカウントを回収できます。但し、家族が知っているのがアカウントのみで、バンドルメールアドレスを知らない場合、網易へ死亡者の身分証明書のコピー等を提出することでバンドルメールアドレスを変更し、これによりパスワード変更資格を取得し、アカウントを回収することが可能となります。」
死者の日記は、サイトにより保護を受ける
莫大な数のユーザーが存在するソーシャルネットワークサービスにおいて、「アカウントの相続」についての説明は、更に複雑である。開心ネット広報部の文女史は、「アカウントの使用権及び所有権は、いずれもユーザーに帰属しているものの、著名人又は事業者のアカウントは、事実上一定期間を経過すると使用できなくなっています。こうしたユーザーとは、登録時に開心ネットが当該アカウントの処理を自ら行う権利を有するという内容の利用約款を締結しているのです。」と述べた。「理論上、ユーザーはアカウントを譲渡することが可能です。但し、アカウントの相続については、そのアカウントには故人のショートメール、コメント、日記等ユーザーの個人情報が関係しているため、これが相続できるか否かについては、故人本人の遺言又はその他の方法で確認する必要があります。」文女史は、このように答えた。
家族がアカウントを回収するには、先ず関連する証明書及び文書が必要で、それを相続人が所有していることを十分証明する必要があり、次に人権に関わる内容については更に死亡者の許可(遺言等)が必要である。ユーザーがソーシャルネットワークや、ブログ上に残した日記、写真、オンラインストレージ上の各種情報、ひいては農家で飢える野菜の種に関する情報について、サイトは、ユーザーの死後どのように処理するのだろうか?前述の文女史は、以下のように回答した。「ユーザーの創作した絵や文章、動画等の内容にかかる所有権は、ユーザーに帰属します。これらの著作権によって保護された情報と資料について、ユーザーは自ら譲渡も可能ですし、相続の目標物とすることも可能です。開心ネットには、これらに対する干渉権はないし、干渉もいたしません。」Facebookでは、ユーザーの死後、ユーザー画面を記念サイトとし、友人及び家族が哀悼の言葉を書き込むことを許可しているものの、如何なる第二者も当該画面へアクセスすることを許さないという。
【反響】
NGOのデジタル遺産に対する呼び掛け
現在中国国内のNGOの一部は、既にデジタル遺産の保護の為に奔走・呼び掛けを開始している。中国デジタル遺産ネットの創始者陳才安によれば、数十年後、人々が大量に残されたデジタル遺産を如何に処理するかを心配するとともに、現在中国国内では、これについての検討が全く行われていないことも心配しているという。このため、去年の今頃、陳才安は、このサイトを立ち上げた。陳才安及び一部のボランティアにとって、デジタル遺産は、精神面及び物質面に分かれる。これには、被相続人のゲーム装備、バーチャル通貨、アカウント及びパスワード、ファイル並びに動画等が含まれる。残念なことに、2012年現在、大部分の国の法律では、死亡した者のデジタル遺産に対する保護措置は採られておらず、これに関連する紛争は益々増加している。
現在、海外では既に、これに関連した多くのサイトでは、ユーザーへ「後事」について準備しており、その検証方法も奇怪千万なものが多い。例えばDeathswitchというサイトでは、定期的にアカウント所持者へパスワード入力を呼び掛ける。長期間入力が無い場合、当該アカウント所持者は、死亡したか重傷を負ったものと推測され、パスワード・金融情報・最後の願い、臨終の遺言、サブレター及び葬儀の手配等、自動的に準備されている情報が指定された連絡者へ送付される。しかも、このサービスは無料ではなく、毎年20米ドルの支払いが必要である。「現在、こうした遺産サービス最大の欠点は、どうやって死亡したか否かを判断することである。」陳才安は、将来医療情報システムが完備されれば、これは大きな問題ではなくなるだろうと述べた。
専門家は、すみやかに法律の空白を埋めることを呼びかけている
現在、中国国内のバーチャル財産立法面の空白は、ユーザー及びネチズン共に困惑を齎している。関連書類を調査・閲覧した際、日本の法律は、「オンラインゲームにおけるバーチャルな役割及びバーチャルアイテムは、独立した財産的価値を具備している。」と明確に規定されていることを発見した。韓国にも関連法がある。「オンラインゲームにおけるバーチャルな役割及びバーチャルアイテムは、リアルなサービスプロバイダが具備している独立の財産価値であり、バーチャル財産の性質は、銀行アカウント中の財産と本質的に差が無い。」アメリカのある州の議会では、バーチャル財産も財産に該当し、相続することができるという法律を既に施行した。
但し、IT問題を専門としていることで有名な趙占領弁護士によれば、現在、中国国内の法律は、バーチャル財産について明確な定義付けをしていない。「バーチャル財産は財産か否か」という問題に解答しないうちには、その保護と相続を語ることもできない。把握している情報では、数年前、複数の弁護士が連名でバーチャル財産を保護する法律を立法化するよう意見書を提出したことがあるという。但し今日に至るまで、立法者がバーチャル財産の価値の特性について認識不足であるため、バーチャル財産は国内法において明確に認可されていない。趙弁護士は、具体的な取り扱いにおいて、バーチャル財産の相続人は、その若干のデータをコピーすることを許可するものの、直接アカウントを相続することは認めずに、コピーした後にアカウントをただちに閉鎖する等々、インターネットプロバイダが技術的な手段を通じて若干の現実的な問題を解決できると言った。また趙占領弁護士は、「インターネット企業も大胆な試みを行い、多くのユーザーによるバーチャル財産の所有権を与えて欲しいという声に返事すべきだ。」とも提案している。こうすることでバーチャル財産保護法の制定に貴重な実践経験を提供することもできる。バーチャル財産の相続、分割に伴うセキュリティ問題へのサポートについては、技術及び管理手段により解決することが可能と思われる。
また、同氏は、「中国デジタル遺産ネット」のようなNGOサイトについても、積極的な探究であると肯定的に捉えている。但し、如何に幅広いユーザーが、その安全性を信頼するか等、将来の道は困難が待ち構えているとも率直に述べている。「根本的には、やはり立法化という手段を通じてバーチャル財産の財産特性を明確化する必要があると思う。そうしなければ、これら新しい業界の発展は、バーチャル財産に依存するサービスプロバイダの態度如何となり、そのリスクは高くなる。 」と述べている。
作成日:2012年08月16日