著作権法草案第72条をめぐる論争 ―「登記制度」により権利者は法定賠償権を失うか?―
著作権法草案に登記制度を新たに設けるという件に、疑問が呈されている。著作権法草案第6条は、著作権又は関連権利の登記制度を新たに設け、当該登記書類は、登記事項が真実であることの初歩的な証明になるということを明確にした。草案第72条第2項は、著作権又は関連権利の登記・ノウハウ許可契約又は譲渡契約登記を法定賠償の前提条件することになる。
関係者の中には、関連権利者が著作権及び関連権利を登記していないことにより、法定賠償のチャンスを失うことになるのではないかと心配している者もいる。
国家版権局法規司の関係者は、法制日報記者の取材に対し、その心配は杞憂であると述べた。
この関係者によると、民法の観点からみれば、損害賠償の適用は「埋め合わせ」を原則としており、権利者がこの「損失」によって損害を被ったことを充分に立証できなければ、どれだけ埋め合わせすべきかハッキリしないことになる。中国の知的財産権の現実を踏まえ、権利者を保護するため、法律は知的財産権にかかる損害賠償に関し、法定賠償を別途規定した。著作権法、商標法及び特許法は、いずれも類似の規定である。
法定賠償は、損害賠償を補足する制度であるため、権利者の実質的な損失のみに適用する。権利侵害者の違法に得た所得を確定できない場合、権利侵害行為に関する複数の要因を考慮しなければならない。司法の実践においては、一部の権利者は訴訟を提起する際に、自己の立証責任を減軽しようという目的で、直接法定賠償を主張する場合がある。裁判所が法定賠償額について直接判決を下すことができるか否かについては、様々な見解が存在している。
海外の例を見ると、アメリカでは、法定賠償は、登記を前提条件としており、登記されていなければ裁判所は賠償請求を支持しないとしている。
従って、法定賠償制度の立法の趣旨、司法の現実が反映する問題及び海外の例を踏まえ、今回の改訂案には法定賠償限度額の引き上げと共に、その適用条件を厳格化する等、相応する調整が行われた。実務上の取り扱いでは、主に権利者の損失、権利侵害者の違法所得に基づいて賠償を行うため、今回の改訂には権利取引費用の参考基準を追加し、損害賠償の計算方法を、よりフレキシブルかつ実用化した。このために権利者が損害賠償権を失うという心配は不要である。なぜなら、現行法及び草案ともに登記せずとも保護されるという規定があるためで、要求されるレベルが高くなり保護のハードルが高くなったに過ぎないからである。
また、取引コストを引き下げ、取引リスクを減少させ、取引のクオリティを保証する等、登記そのもののメリットは言うまでもない。
(法制ネットより) |
作成日:2012年05月30日