労働契約法改正案「労務派遣違反への罰金倍増」
各界から注目されていた『労働契約法』の改正作業は、ついに具体的な進展を見た。全人代の法制工作委員会は『労働契約法』の改正案(意見募集稿)(以下『労働契約法修正案』という。)を3月末に起草し、現在関連部門及び委員会、専門家から更なる修正意見を求めているという。
改正条項を見たところ、『労働契約法』の第66条、第74条、第77条、第92条の内容が修正及び追加されたのみに過ぎない。うち第92条の修正では、規則に違反した労務派遣会社の罰金基準を現在の「1人当たり1,000元以上5,000元以下」から、「1人当たり2,000元以上10,000元以下」に引き上げた。補足としては、労務派遣の臨時的、補助的、代替的(以下「三性」という。)という規定に違反した事業者にも、同額の罰金を科すという項目が追加された。
「労務派遣」について
『労働契約法』は、2008年1月に施行されて以来、特に法曹会外部から疑問が呈されていた。法曹会内部の者は普遍的に、この労務派遣規定は「原則的」すぎ、特に労務派遣の「三性」について如何に境界線を引くかという点に明確な規定がなく、このため一部の労務派遣会社、派遣先事業者に法の抜け穴を与えることになっており、なお且つ労務派遣事業者に対する処分基準が軽すぎると考えていた。『労働契約法』第66条によれば、「労働派遣は、通常臨時的、補助的又は代替的な業務職位で実施する。」と規定されている。但し、この規定以外には、「三性」について如何に境界線を引くかについて充分に説明されておらず、実務上で論争を生じさせることとなった。前述の関係者は、労務派遣の範囲を明確にし、法を適用する際の遺漏を減少させる目的で、『労働契約法』の改正稿においては、元の『労働契約法』の中にある「通常」を削除すべきではないかと分析している。
「三性」の具体的な境界線は、それぞれ以下のとおりである。臨時的とは、事業者で働く期間が6ヶ月未満の場合を指す。補助的とは、事業者における職位が主要業務ではない場合を指し、代替的とは派遣先の従業員が休職して研修を受けたり、休暇を取得する等で当該職位にて勤務できない一定の期間に派遣労働者が代替可能な業務を指す。『労働契約法』第92条には、主に労務派遣会社に対する処分が定められていた。法律違反の労務使用行為にについて従来の「従業員一人当たり1,000元以上5,000元以下の罰金を科す。」と言う処分基準を、「一人当たり2,000元以上10,000元以下の罰金を科す。」と改正することとした。追加する内容には他にも、「法律違反した事業者も同額の罰金を科すという点を明確にした。
全人代は、『労働契約法』の改正案を今年の両会(全人代と政治協商会議のこと。以下「両会」という。)期間中、明確に議題とした。前述の関係者は、『労働契約法』改正作業予備段階で、全人代法制工作委員会等は、国務院国有資産監督管理委員会及び独占的な中央直属企業(国の管理下の特殊会社。以下「中央企業」という。)から激しい抵抗に遭った。年内に公布される『労働契約法』のため、特に『労働契約法』の改正稿の中に第92条の罰則基準について2プランを提案した。そのうちの1つは、違反行為を継続している労務派遣事業者に対し「一人当たり1,000元以上5,000元以下』の基準で罰金を科すというものである。
中央企業からの抵抗
労務派遣は、主に独占的な大手中央企業や事業者などの広い範囲で行われている。全国総工会(中国の労組)の調査によると、2010年度の全国における労務派遣従業員は6,000万人にも達しており、都市就業人口の20%を占めている。また独占的な性格を有する大手の中央企業や、国家事業者においては、3分の2の従業員が労務派遣となっている。『労働契約法』に「労務派遣」の章が特に設けられている目的は、労務派遣を制度化するためであった。しかし、当該法の施行以来、労務派遣は却って各事業者で日増しに蔓延る結果となっている。今年の両会開催期間中、全国協商会議委員、中国農工民主党の中央委員杜黎明氏は、「中国移動(チャイナモバイル。中国の通信会社。)は全従業員50.3万人中、35.8万人が労務派遣従業員であり、従業員全体の71.2%を占めている。」と述べ、人社部(人力資源・社会保障部)、全総工会、工商総局等の部門が先頭に立ち、国有企業、国家機関・事業者、特に石油、電力、電信、金融等の基幹業界及び事業者が労務派遣制度を濫用することを重点的に監督調査するように提案している。
前述の関係者によれば、『労働契約法』は2008年末に公布され、全国人民代表大会などから労務派遣に関する法律法規を迅速に完備するよう提案されていた。このため人社部は、労働に関する専門部署として、2009年より『労務派遣条例』の制定作業に着手したものの、今日に至るまで『労務派遣条例』は世に出ていない。当該条例の施行が遅々として進まないのは、主に既得権益を有する利益集団からの反対意見が大きいためと思われる。
去年の2月中旬、全国総工会は「労務派遣調査研究報告」を行い、全人代法制工作委員会へ労務派遣の氾濫現象がますます悪化しているため、『労働契約法』の「労務派遣」に関する内容を速やかに修正することを提案している。全人代は、さらに各界との意思疎通を図り、調査の後、最終的に今年の両会にて『労働契約法』の改訂を行うことを決定した。
現在の状況は、全人代法制工作委員会が各界より意見を求め、『労働契約法』の改正作業を加速させる一方、関連部門が『労務派遣条例』、『企業人員削減規定』、『「労働契約法」の実施を貫徹することに関する若干の規定』等、『労働契約法』と1セットとなっている規則及び政策措置を推進しているところである。
(経済観察報より)
作成日:2012年04月27日