養老金約2兆元が高齢化社会と資金運用の2重プレッシャーに直面
最近、養老金の上場が話題となっている。養老金を上場する上で最大のリスクの根源は、やはり中国の資本市場自身であり、多くの上場企業の情報がクローズされているか不透明で、幾つもの誤った情報が公開されていることが、養老金の上場にとっての落とし穴となっている。また法的整備も必要であり、これによって初めて立法・司法機関が養老基金を流用した責任者に対して極刑を科すことが可能となる。去年の年末以来、中国証券監督管理委員会、全国社会保険基金理事会の責任者は、再三養老金の上場を呼び掛けてきた。現在、養老金の上場に関する憶測及び議論が絶えない。養老金は巨額の「命を守るための金」として、その一挙一動が間違いなく人々の関心事となっている。
高齢化社会「中国に退路はない」
現在、中国の養老金累計残高は1.92兆元だが、養老基金の投資ルートは「銀行預金」及び「国債購入」の2通りしかなく、価値を維持するプレッシャーは非常に大きくなっている。中国政法大学法律・経済学研究センターの胡継曄副教授は、養老金の監督・管理については、流用されなければ良いというだけではなく、その資金運用も同様に監督・管理の重要テーマであると述べ、更に以下のように述べた。
「養老金の規模は、一兆元規模となっている。このような巨額の資金は、普通預金にするか定期預金にするかで利息の差が数億円にものぼる。表面的には資金は依然として口座の中に存在しており、積立金が無くなったわけではないが、資金を長期的な視点から分析した場合、時が経てば経つほど目減りしていく。財政専用口座の管理者は、社会保険基金を普通預金に預けているだけなため、保険加入者は、その預金を自分で定期預金に預けた方がマシだと思わないだろうか。」
養老金が資金運用プレッシャーに直面しているのと相対して、中国の高齢者の人口も急激に増えており、将来の実質的な養老金のプレッシャーは極めて大きなものとなっている。民政部及び全国高齢者業務委員会弁公室等の部門の統計データに基づけば、ここ10年の中国の高齢者人口は5,000万人増え、現在は年平均1,000万人近くと「駆け足で増加」しており、2020年には、中国の高齢者人口は2.48億人に達し、高齢化のレベルは17%に達すると見込まれる。2050年には超高齢化段階に入り、中国の高齢者人口は4.37億に達し、総人口の30%以上を占める見込みである。つまり3、4人のうち1人が高齢者ということになり、なお且つ高齢化、家庭の高年齢化が日々顕著になってゆくと考えられる。
清華大学公共管理学院の楊燕綏教授は、「中国には退路はない。著しい人口構成の変化と高齢者扶養負担のため、中国は市場投資を通じて養老金を増やすことを学ばなければならない。仮に公共部門を牽引する納税者及び財政収入だけを頼りに養老金問題を解決しようとしても出口は見つからないと思われる。」と述べている。
養老金の上場は流用リスクの増加につながるか
去年より、中国証券監督管理委員会の郭樹清主席、全国社会保険基金会理事会の戴相龍会長は、養老金の株式投資を積極的に進めるという立場を表明した。郭主席は、2012年及び今後一定期間、社会保険基金、企業年金、保険会社等の機関投資家が資本市場の投資比率を高めることを奨励し、全国の養老保険基金を積極的に推進し、住宅積立金等の資金を上場すると述べた。戴会長は、「第12次5カ年計画」では、既に「積極的かつ安定的に養老基金の投資を運営する」という方針を掲げていると述べ、これを着実なものとするため、関連部門は、省市区管理の一部の基本養老保険基金を集中し、一定の比率で各種の金融資産を投資することを準備しているという。 一方、株価の下落が止まらないA株について中国の各界は憂慮している。養老金上場は、資金運用へのメリットはあるのだろうか。
戴会長は、「養老金の上場は、全てを上場するではなく、一部分の上場であり、そうすることで養老金がより良い投資組み合わせを形成することになる。」と述べ、養老金の上場は市場の信用力を高め、市場の安定に有利であると考えている。楊教授は、「現在の状況からみて、養老金情状の最大のリスクの根源は、やはり中国の資本市場自身である。多くの場企業の情報がクローズされているか不透明、又は若干の誤報が公開されていることが、養老金の上場にとって、一種の落とし穴となっている。養老金の管理は、しっかりした資産管理でなければならず、融資マネーゲーム、投機リスクとは相入れないものである。」と話す。また、胡副教授は、「国レベル、地方自治体の管轄部門が投資主体である場合、投資分野は専門性を欠くように見える。また、養老金が流用されるリスクが高まるだろう。」と、養老金上場にとって最大の困難は、投資の主体の問題だと考える。
先頃、あるメディアは、国務院の関連部門で現在基本養老保険の投資管理機構の設立が検討されており、これが具体的な養老金の投資運営業務の責任を負うことになると報道した。消息筋によれば、現在関連部門は、既に養老金投資管理機構設立についての書類を提出し、関連部門は現在鳴物入りでフィージビリティスタディを行っているという。これについて、胡副教授は、中国の養老金管理には、イギリスの手法を参考にすることができると話す。複数の部門が提携して投資機構を設立し、理論的には人力資源及び社会保障部から独立するべきだが、銀行監督管理委員会、証券監督管理委員会等の監督管理部門の監督管理を受け、市民による「資金運用委託」方式により養老金に対して管理を行うべきだと考えている。楊燕綏教授も、一旦養老基金が上場した場合、社会は、養老金文化及び教養並びに養老金事業へ熱意ある株主ならびに董事会が備わり、養老金投資を長期的な収入の見込める安定的な事業と見なす専門の養老金管理会社を必要とすると提言する。これらの会社は、専門の作業チーム、カバーエリアの広い情報システム及び実名制の個人口座が必要であり、個人の為に生涯記録及び養老金の管理をすることが出来る。これには納付記録、投資収益、支払記録が含まれ、顧客が高齢者サービスを団体購入することを代行し、これによって養老サービスの産業化及び規範化を促進する。
法治主義を完備させて養老金の安全を保証
養老金の上場について、世論からは大きな反響があり、「中国の株式市場は『世界をリードする地位から転落』を始めており、養老金が欠損した場合、どうなるのか想像もできない。」と、ある北京市民は不安げに話した。事実上、養老金の上場は国際慣習であるけれども、システマッチックな作業であり、最終的に解決すべきなのは「老後に養老金が存在するか否か」という問題である。従って、養老金の上場及びその運営は、いずれも明確な法的根拠の元に行う必要がある。このため、理論的な面からも実践の面からも、養老金の上場については、各方面とも慎重な意見が多い。
楊燕綏教授は、「養老基金の上場を実現し、国民が経済発展の恩恵に浴せるようにし、依頼を受ける者を育て、資本市場及び養老サービスシステムを健全化するという目標を実現するには、国の上層レベルの設計、法治主義の確立、国家機関戦略及び国民の教育という4つの条件を強化する必要がある。」と話し、先ず養老基金の上場の上層レベルの設計には、政府部門による政策決定を断固として拒否する必要があり、『養老基金条例』を制定して、養老貯蓄の徴税延期政策、養老基金の投資範囲、資産形成の原則を明確化する必要があると述べた。この他に、投資機構の資格、審査及び剥奪、投資収益の分配並びにリスクの分担、管理費及び交渉、情報開示並びに財務報告、監督管理等一連のメカニズムを確立する必要があると述べた。
(法制ネットより)
作成日:2012年02月28日