最新法律動向

社員旅行での溺死が労災認定

 職場で計画された旅行に参加して事故になった場合、労働災害として認定されるだろうか。重慶市内外の類似案件を見る限り、最終的にいずれも労災と認定されているようだ。しかし、旅行が職場の計画したものではなく、社員同士による割り勘だった場合はどうなるだろうか。この場合、誰かが負傷したり死亡しても労災と認定されるだろうか。

 この数か月、朝天門で経営を営む個人工商業者陳剛及び墊江から主城に出稼ぎに来ている胡相軍夫妻は、この問題のために困惑させられていた。法曹界の関係者によれば、今回の労災認定案件は、国内でも稀有な事件といえる。

事件概要】

 従業員がピクニックに出かけ、事故により川で溺死
 
陳剛氏と胡相軍夫妻を結びつけるのは、胡国建という名前の21歳の青年である。胡国建は胡相軍夫妻の長男であり、陳剛氏の会社の倉庫管理人であった。今年7月24日、会社のピクニックへ行った際、胡国建は不注意により溺死した。胡相軍氏の妻である何均碧女史の記憶によれば、事故は7月24日(日曜日)夕飯時だったという。その日、息子は何均碧女史に、会社の人達と南湖へ遊びに行くので父親に倉庫の見張りを頼んで欲しいと言ったという。午後5時頃、胡相軍夫妻が晩飯を食べている時、息子から電話がかかってきて、父親に何番のバスに乗れば倉庫まで行けるかを告げたという。

 しかし、その電話を切ってから10分ぐらいも経たないうちに、息子のガールフレンドの銭さんが慌てながら「お父さん!胡国建が川に落ちてしまいました!」と言う電話を受けたという。夫妻は慌てて南湖に駆け付けた時、救助作業は行われていたものの、息子は見つかっていなかった。3日後、胡国建の遺体が引き上げられた。重慶市公安局南区分局の南彭派出所は、胡国建が溺死したことを確認した。

仲裁】

 胡国建氏の死亡は労働災害による死亡に該当
 
事件発生時、胡国建氏及び職場の同僚、陳剛社長及びその家族並びに朝天門市場の別の3社の従業員一行合計23名が巴南南湖観光地に遊びに出かけていた。陳剛氏によれば、その日一行は、6艙の電動客船に分乗して南湖に於いて舟遊びをしたが、各船の間隔が近かったため、陳剛氏は船の前側に座って隣の船の子供と遊び、他の者も各自船上で水遊びをしたり、水合戦をしていたという。

 事故発生時、胡国建氏は彼の乗っていた船から、陳剛氏の乗っていた船に飛び移って船の後ろの者と水合戦をしていた。「その約2分後に、水音が聞こえました。」陳剛氏が水音の聞こえた方に頭を向けると、胡国建氏が水の中を約5、6メートル泳いでいるのが見えたが、突然水の中に沈んでしまったという。陳剛氏によれば、当時同行者が慌てて水に飛び込んで救助に向かったが、陳剛氏本人は泳げず、船上にも救命用具が無かったため、船上で水に入った救命者に協力し、なお且つ救急隊を探してきたが、最終的には救助できなかったとのことであった。

 胡国建氏は、なぜ水に落ちたのか。同行者及び胡国建氏のガールフレンドの銭さんの説明は共に一致している。胡国建氏は、本人の不注意によって水に落ちたのである。

 9月20日、胡相軍夫妻は、渝中区人力資源社会保障局へ胡国建氏の労災認定の申し立てを行った。10月30日、労災認定決定書により結論が出た。陳剛氏と胡国建氏の間に労働関係があったことが確認され、『労働災害保険条例』第14第(5)号の規定に基づいて、「胡国建氏の死亡の事由は、労働災害に該当する」と認定された。

【紆余曲折】

社長は判決を不服として再議を提起
 
息子の死亡が労働災害と認定されたことで、胡相軍夫妻は多少慰められた。しかし、事は、そう簡単には決着がつかなかったのである。12月2日、胡相軍氏は市人力資源社会保障局からの再議通知書を受領した。実は、陳剛氏が渝中区人力資源社会保障局による仲裁を不服として行政再議の申し立てを行ったのである。陳剛氏の担当弁護士は、再議を申し立てた理由について、当該事故は職場の計画したピクニックではなく、社員同士による割り勘旅行だったため、労働災害と見なされるべきではないとの考え方を示した。

 陳剛氏は、事件が発生する1週間前、一部の従業員から今は業務の閑散期なので、自費でピックニックに行く提案がされたと述べた。会社の入っているオフィスビルの他の3社の従業員も、この提案に同意した。7月23日、全員で巴南区佛影峡で川下りをしようと決めた。費用については、旅行が終わってから全参加者により割り勘することとなった。そこで、陳剛氏本人も参加申し込みをした。従業員の費用は、陳剛氏が立て替え払いし、同じビルの別の会社の李忠兵氏に渡して預かって貰った。2日目、4社の従業員及びその家族友人一行23名が、佛影峡へ向かった。道が混雑していたため、行き先を変更して南湖観光地へ向かった。

 陳剛氏は、南湖へピクニックに出かけたのは、全参加者が自由意思で決めたもので、費用は割り勘であり、陳剛氏本人及び陳剛氏の会社が計画したものではなく、ピクニックへ出かけた日も休日であり、場所も陳剛氏の会社所在地ではないため、胡国建氏が溺死したことは、労働災害と認定されるべきではないと考えた。

進展】

 家族による訴訟の提起
 
このピクニックは、割り勘だったのか。これについて、このピクニックに参加した6名の当事者が事前に割り勘であると確かに説明されていたと証言した。胡国建氏のガールフレンドの銭さんも、事後胡国建氏の両親に証言していた。今回のピクニックは割り勘で、胡国建氏は、自らの不注意で水に落ちたのである。

 胡国建氏が事故に遭った後、朝天門の個人工商業者協会は、陳剛氏の為に「調査の結果、彼らの今回のピクニックは割り勘であった。」との証明書を発行したとのことである。協会の張会長によれば、朝天門市場の従業員、経営者が割り勘旅行をすることは一般的であり、これは企業が企画する福利旅行とは明らかに異なるものだと述べた。

 しかし、割り勘という言い分は死者の両親からの賛同は得られなかった。「私達は、渝中区の裁判所へ訴訟を提起しました。」昨日、胡国建の両親から依頼された弁護士は、労働災害を如何に認定するかについて、司法の判断を待ちたいと述べた。現在、本案の行政仲裁プロセスと司法プロセスが同時に進行している。

 本案件の鍵は、社長のピクニック参加
 
昨日、市弁護士協会労働社会保障委員会の弁護士、合縦法律事務所の鐘長漢弁護士が本案について分析を行った。鐘弁護士は、労働災害の認定は先ず労働関係が存在しているか否かが1つの前提であると考える。本案件では、個人工商業者陳剛及び従業員胡国建の間には明らかに労働関係が存在していた。従って、労働災害と認定する前提が存在している。

 次に、労働災害認定には、発生の条件が必要である。『労働災害保険条例』に基づけば、労働災害は、一般に3つの要件に適合することが必要である。それは、勤務時間、勤務場所、業務により原因である。しかし、当該案件では、胡国建の事故が発生したのは勤務時間ではなく、勤務場所でもない。使用者側が今回の旅行は割り勘であったと証拠により証明できる場合、職場の職務行為の履行ではなく、個人行為に該当すると言わざるを得ない。

 鐘弁護士は、本案件の鍵は、使用者の社長も今回の旅行に参加していることだと考えている。割り勘旅行という言い分が成立した場合、社長の身分が特殊だとしても、社長も一人の人間としてピクニックに参加したのであり、社長が参加したというだけで、従業員の死亡を労働災害と見なすことはできないと思われる。

 割り勘での参加
 
割り勘相乗り、割り勘旅行……現在、割り勘は、市民生活において一般的な事柄となっている。法律の専門家によれば、その実割り勘には一定のリスクがあり、参加者は事前にコース、発生する可能性のある事故等各種状況について事前に約定し、事故が発生した場合の責任の所在を明確にしておくべきだという。

 去年、このような割り勘旅行事故が発生した。2010年11月30日、「洛陽驢友」(「驢友」は中国語の「旅行」と音通)スレッドのトビ主楊氏が「驢友」を募って河南省輝県市の観光地へ旅行しようという企画を立てた。その通知の中で「この活動のリスクは個人が負うものとし、トビ主及び引率者は責任を負わないものとする。活動費は、割り勘とする。」との表明を行った。12月4日、「驢友」の徐氏はこの旅行に参加し、仲間を追いかけるために観光地の小道を歩いている際、不注意から20メートルの高さの崖より墜落して絶命した。法律は最終的に、観光地が主な責任を負い、徐氏本人が副次的な責任を負う以外、その他の者には責任がないと認定した。

 法律の専門家が本案件にて他の者に責任がないと認定したのは、募集のトビにおいて、募集者が先ず明確に「この活動のリスクは個人が負うものとし、トビ主及び引率者は責任を負わないものとする。」との表明を行っていたからである。これは、今回の旅行契約の「申し込み」と見なされるものである。また、今回の旅行は割り勘であり、収入を目的とした旅行社が計画した旅行とは明らかに異なるものであり、事故が発生したとしても「トビ主」等が責任を負うものではないと思われる。 

(重慶晚報より)

作成日:2011年12月23日