労務派遣の濫用問題
労務派遣の実態が明らかに
全人大常務委員会労働契約法執行状況検査報告書によれば、一部の事業者において労務派遣制度が濫用され、派遣従業員の合法的な権利及び利益が損なわれている実態が明らかになっている。
「全国総工会(中国の全国規模の労働組合)が調査を行った結果、中国全土に於ける労務派遣従業員は、少なくとも2,000万名に上ると推算されている。一部の業界及び事業者では、労務派遣を主な労働者の使用方法に選んでおり、その比率が90%に達する事業者も存在する。」と、先頃、周玉清全人大常務委員は、全人大常務委員会において労働契約法の実施状況についてグループごとに審議した際、このように述べた。
これに先立ち、国際的に著名なブランド・グッチ(Gucci)は、「時間外勤務の裏事情」及び「従業員虐待」の疑いで調査を受けた際、労務派遣も工場側が使用者としての責任を逃れる口実の一つとなっていたことが明らかとなっている。どのように労務派遣の濫用を阻止するかが、大きな話題となった。
労務派遣の著しい濫用
労働契約法に基づけば「労務派遣は一般的に臨時的、補助的又は代替的な職務において実施する。」及び「使用者は、職務上の実際の必要性に基づいて労務派遣事業者と派遣期間を確定し、連続使用期間を分割し、いくつかの短期間の労務派遣契約を締結してはならない。」と規定されている。但し、実情では、この条項は様々な理由から守られていない。
「グッチ事件」においても、深圳グッチショップの大部分の従業員が締結した契約期間は少なくとも2年であり、「(私達の仕事は、)どう考えても臨時的、補助的という言葉で形容することは難しい。」と多くの従業員が述べている。
かつて2省での労働契約法執行状況検査に参加したことがある陳斯喜全人大常務委員会委員は、検査の状況からみて、労務派遣従業員の濫用は明らかであり、「多くの労務派遣従業員の使用は、臨時的、補助的又は代替的という要求に適合しておらず、多くは主要又は長期職務にて使用されている。」と述べた。また、胡彦林全人大常務委員は、「一部の資料は、広東省の金融業者で働く57.4%の労務派遣従業員が主要な職務に就いていることを示している。広州にある某国有銀行の15支店中、労務派遣従業員2,900名が窓口業務を行っており、総従業員の91.5%を占めている。」と述べている。
派遣手続の人為的な複雑化
調査により、グッチの深圳ブランドショップは、複雑な労働使用制度を確立していたことが明らかになっている。深圳羅湖区人力資源局法制科の馬鋒科長は、これについて深圳のグッチショップの従業員はグッチが管理しているものの、彼らと契約を締結したのは深圳市南山区の南油外服人力資源有限公司という企業であると述べている。
「言い換えれば、彼らが締結したのは全て労務派遣契約である。我々は、彼らは契約に締結した後、先ずグッチ上海本部に「派遣」され、それから深圳に再「派遣」され勤務していること突き止めた。従って、我々が深圳で発生した労資紛争について調査・証拠聴取する場合、全ての調査が管轄外調査となる。これは、時間と労力を消耗するばかりではなく、調査・証拠聴取に多くの抵抗力と困難を齎すものである。」
馬鋒科長はメディアの取材に対して「これは更に同一労働は同一報酬ではないという現象の普遍化を招いている。「某省の通信、電力、金融業界における労務派遣従業員の賃金は、正規従業員の38%でしかない。また、労務派遣従業員は、正常な社会保険待遇も受けることが出来ないでいる。現在、中国の各項社会保険は、全国統一での実施は完全には実現していない。地方により納付基数、比率等に格差が存在しており、一部の労務派遣事業者は、この隙間に付け込んでいる。」と話す。
また、胡彦林全人大常務委員は、「例えば広東省の一部の労務派遣会社は、広州、深圳等で労務派遣従業員を募集しながら、広東省よりも遅れた地区、江西・広西等の外省区に設置した支部と労働契約を締結させ、なお且つ現地で保険に加入して保険加入費用を減少させている。一部に至っては、派遣従業員の保険費用を納付していない事業者さえいるという。」と言及した。
労務派遣従業員の就職機会が少なく労働関係が不安定
「現在、多くの派遣事業者には労働組合が無く、一部の事業者の労働組合も派遣従業員を組合員の中に組み入れていない。そのため、労務派遣従業員は、自らの合法的な権利及び利益を維持・保護することが難しくなっている。実務において、労務派遣従業員が時間外勤務を強いられ、労働条件が悪く、労働安全保障措置が不十分で、余暇リクリエーション生活が単調だという問題が突出している。」と胡彦林全人大常務委員は述べている。
2010年12月にも、数校の大学の大学生からなる社会調査グループが結成され、コカコーラ瓶詰工場の労務派遣状況について「潜入」調査が行われたことがある。調査は、2008年7月から開始され、北京、広州、杭州の3地区9名の大学生が、この活動に参加した。調査グループのメンバーは、一般アルバイトの身分で工場に潜入して勤務し、なお且つ各種の方法を通じてコカコーラ瓶詰工場及びそのサプライヤーに対して調査が行われた。
調査に参加した大学生の調査によれば、多くの派遣従業員のコカコーラ瓶詰工場での勤務時間は2年以上であり、最長の場合は10年に達していたと述べている。例えば生産ライン上の瓶詰、瓶交換、瓶検査、瓶装填、ラベル貼等及び包装、フォークリフト、運転手等、多くの業務は長期的・基礎的であり、臨時的・補助的な職務では無い。調査により、瓶詰工場4社の派遣従業員の繁忙期における毎月の時間外勤務は100時間以上に及んでおり、法定時間の36時間を大幅に超過していたことが明らかとなった。
陳斯喜全人大常務委員会委員は、「労務派遣従業員の濫用は、労働関係の不安定を齎している。企業が労務派遣従業員を使用する場合、往々にして若者を、労働価値を創造できる時間に利用したいだけで、長期的な使用計画はない。しかし、これは労務派遣従業員の発展の空間を狭めることになる。特に受けるべき研修を受けることが難しいと思われる。」と述べている。
(人民日報より)
作成日:2011年12月08日