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中国の法定退職年齢引き上げと企業の雇用 -NEW-

   2024年9月13日、中国第14期全国人民代表大会常務委員会第11回会議の審議採決にて、全国人民代表大会常務委員会は漸進式法定退職年齢引き上げの実施に関する法案を可決し、「国務院による漸進式法定退職年齢引き上げに関する弁法」(以下「弁法」という。)が承認されました。本『弁法』は2025年1月1日から施行されます。
   この定年年齢引き上げ政策は、企業の雇用や個人の生活に大きな影響を与えると思われます。そこで今回は、本『弁法』の内容と企業の対応について、Q&A形式で説明いたします。

1.男女それぞれの定年年齢は何歳まで引き上げられたのか?
   本『弁法』では、男性及び女性の「漸進式」定年年齢引き上げについて具体的な方法が記載されています。詳細は以下の通りです。
(1)男性の法定定年年齢が63歳に
   男性の法定定年年齢は2025年1月1日から2039年12月までに、段階的に60歳から63歳まで引き上げられます。引き上げペースは4ヶ月毎に1ヶ月となります。(『弁法』第1条)
   例えば、1966年1月に生まれた男性は、2025年1月から2026年1月までの13ヶ月(定年年齢60歳で計算)で、4ヶ月毎に定年年齢が1ヶ月引き上げられます。即ち、法定定年年齢は60歳4ヶ月となり、2026年5月に定年を迎えます。
(2)女性の法定退職年齢は管理職が58歳、労働者が55歳に
   現在、女性労働者と女性管理職の定年年齢については異なる政策が実施されているため、今回も同様に異なる定年年齢が設定されています。(『弁法』第1条)
①女性労働者の定年年齢は2025年1月1日から2039年12月までに、段階的に50歳から55歳に引き上げられます。引き上げペースは2ヶ月毎に1ヶ月となります。
②女性管理職の定年年齢は2025年1月1日から2039年12月までに、段階的に55歳から58歳に引き上げられます。引き上げペースは4ヶ月毎に1ヶ月となります。

2.女性管理職は53歳までに早期退職してもよいのか。
   女性管理職は53歳以下での早期退職はできません。理由は以下の通りです。
   本『弁法』では、従業員は養老保険の最低納付年数に到達していれば、自ら早期退職を選択することができます。つまり、新しく規定された定年年齢に達していなくても、早期退職できることになります。(『弁法』第3条)
   但し、本『弁法』では、早期退職を選択する場合でも、繰り上げ年数は3年以内とされており、かつその年齢も元の定年年齢を下回ってはならないと規定していることに注意しなければなりません。女性管理職の現定年年齢は55歳であるため、55歳以下の女性管理職は早期退職することはできません。

3.従業員が定年退職の延長を選択した場合、企業の合意は必要か?
   従業員が定年退職の延長を選択した場合、事前に必ず企業の合意を得なければなりません。
   本『弁法』には、従業員は定年退職を延期することができると規定されています。即ち、定年年齢(弊所では引き上げ後の定年年齢と解釈)に到達した従業員は、定年の延長を選択することができます。ある男性従業員の引き上げ後の定年年齢が63歳である場合、最大3年間、つまり66歳まで勤務を続けることができます。(『弁法』第3条)
   定年年齢に到達した従業員は定年を延長する権利を有しますが、企業との合意が必要であり、企業の合意がない場合、一方的に定年を延長することはできません。今後、定年延長を行う場合は、人力資源と社会保障部の定年審査部門に定年延長に関する企業との合意書や証明資料の提出が求められる可能性があります。

4.2031年6月に退職する従業員の基本年金の最低納付年数は何年か?
   本『弁法』では、2030年1月1日から基本年金の最低納付年限を15年から20年に徐々に引き上げるとしています。引き上げペースは1年あたり6ヶ月です。(『弁法』第2条)
   これは、2029年12月31日までは最低納付年限が15年であることを意味しています。
   2030年1月1日から2039年12月31日までの間に、基本年金の最低納付年限が15年から20年に引き上げられるため、2031年6月に退職する従業員の基本年金の最低納付年数は16年(15年+6ヶ月×2)となります。

5.坑内や高温など特殊な職種従業者の早期退職制度は?
   本『弁法』では、坑内や高所、高温、特に重労働であるなど国が規定する特殊な業種、および海抜の高い地区で就業する労働者については、以前の特殊業種従業者の早期退職制度を改善させると規定されています。
   今回の定年年齢引き上げ後、以前の『労働者の退職・退職に関する国務院の暫定措置』第1条第(2)項に規定された特殊業種の早期退職年齢も変化する可能性があります。

6.個人及び企業へのアドバイス
   定年年齢の引き上げは企業にも個人にも大きな影響を与えるため、事前検討や計画の策定が必要となります。
(1)個人へのアドバイス
   定年年齢の引き上げは仕事や老後の計画、さらには生涯設計にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、事前に自分の仕事や老後(民間年金と基本年金の結合)を見直し、自身の資産および仕事や生活について合理的に計画する必要があります。
(2)企業へのアドバイス
   今回の従業員の定年退職年齢の延長は、現地企業の人事配置や管理、管理職の人材構築及び「若手人材」の育成計画、労働契約の履行と終了、社会保険の納付、退職年齢の確定、退職手続きの処理、労働争議の解決など、各方面の問題に直接影響を及ぼすものとなります。また従業員の高齢化がより多くの労災や病気休暇などの問題に繋がる恐れもあるため、発生可能性のある影響や問題について現地の豊富な経験を有する弁護士に相談し、事前に自社の従業員の状況に基づいた対策を立て、準備を整える必要があります。

作成日:2024年09月23日