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外国人が中国人の名義を借りて不動産を購入するリスク -NEW-

   実務において、外国籍者が社会保険納付年数の不足や住宅購入地戸籍の未取得、外国籍であることなどが原因で中国の住宅購入資格を取得できず、親戚や知人など中国人の名義を借りて住宅を購入するケースがあります。この「名義借り住宅購入」では、外国籍者(以下「名義借用者」という。)が費用を支払い、中国籍者(以下「名義提供者」という。)が住宅購入契約書を締結して住宅所有登記を行います。
   但し、取引過程の不確実性や、住宅価格の大幅な変動、政策の変化などの原因により、名義借り住宅購入は紛争が発生しやすく、多くのリスクを孕んでいます。そこで今回は、名義借り住宅購入のリスクについて、各日系企業及び駐在員の皆様にご参考いただけるよう、簡単に解説いたします。

1.名義借用者が支払う住宅購入費用は借金であると名義提供者が主張し、代行住宅所有を否定する
   実際に不動産会社と住宅購入契約書を締結するのは名義提供者ですので、名義提供者と名義借用者は実質的には債権関係にあり、名義借用者は購入した住宅に対する直接的な法的関係又は権利を有しません。
   そのため、書面による約定がない場合、名義提供者が住宅の価値の高騰を理由に、名義借用者が支払っている住宅購入費用は名義借用者に対する借金であると主張し、住宅の返還や名義借用者の求めによる住宅所有権の変更手続きを拒否する可能性があります。

2.名義借り住宅購入契約が有効か否かには不確実性がある
   名義借り住宅購入契約が有効か否かについては、有効であるという意見と、全部又は一部無効であるという両意見が存在します。
(1)一般的には、名義借用者が契約上で約定した「住宅所有権の直接的取得」の条項は無効となる。
   中国では、『民法典』第209条により、不動産の物権(所有権)取得には登記制度が実施されているため、登記を行っていない場合は物権効力が発生しない理由による。
(2)上記(1)以外の名義借り住宅購入契約条項が有効か否かは、実情に応じて判断する必要がある。
①名義借用者が廉価住宅や立ち退き住宅などの政策による保障住宅の購入資格を有していない場合、中国籍者の名義を借りて行う住宅購入について、裁判所は通常この種の名義借り住宅購入契約を無効とする。
   名義借り住宅購入は、国家による保障住宅の監督管理の秩序を乱し、当該住宅の購入資格者の合法的な利益を侵害し、また、公序良俗に反しており、社会の公的な利益を損なうという観点からも、当該契約は無効と判断される。
②当該契約が銀行からの融資を受けるためや、頭金の割合やローン比率を下げるための名義借り住宅購入は、公共の利益を侵害しているとは認定されず、通常は契約無効と判断すべきではない。
   このように、名義借り住宅購入契約が有効か否かについては、判断に必要な知識や問題が比較的複雑で、実情に基づいて分析しなければならず、一概に結論を下すことはできないという点に注意が必要です。

3.名義借用者が住宅への入居、使用、受益などの権利を享受できないリスクがある
   名義借り住宅購入の場合、住宅所有権は登記した名義提供者にあるため、住宅の名義変更を行っていない場合、住宅所有権から言えば、名義提供者が販売、占有、使用、収益を含む住宅処置に関わる全権利を有していることになります。
   中国『民法典』第311条の規定によると、名義提供者が名義借用者の同意を得ずにその住宅を販売した場合、譲受人が合理的な住宅価格を支払い、名義変更手続きを完了しているのであれば、名義借用者が名義提供者又は当該住宅を取得した善意の第三者から所有権を取り戻すことは非常に困難となります。

4.名義借用者が名義提供者に対して住宅名義変更を要求出来ない恐れがある
   中国司法実務上では、名義借り住宅購入契約が有効であり、住宅の名義変更に支障がない場合、名義提供者が住宅の名義変更手続きに協力するよう、名義借用者が裁判所に執行命令を要求することができます。
   但し、名義借用者が上述の訴えを要求する場合、以下の点に注意が必要です。
(1)名義借り住宅購入契約が有効と認定される。
(2)名義借用者が住宅購入資格を持つことを挙証する。
(3)名義借用者が住宅購入資金は自らの出資であること、実際に住宅ローンを返済していることなどを挙証し証明する。
(4)当該住宅に司法による差し押さえや、取引年数制限など、名義変更の支障となる事項がない。

   名義借用者が名義提供者に対して名義変更手続きへの協力を要求できない場合、既に支払った住宅購入費用や住宅ローンの元金と利息、取引の報酬、住宅価値上昇利益などを名義提供者に要求することで自身の損失を軽減させることを検討することも可能です。但し、名義提供者に対しローンの利息や住宅価値上昇利益などの支払いを求めたとしても、裁判所の支持を得られるか否かについては不確実性があります。

◆日系企業及び駐在員へのアドバイス
   中国の住宅購入制限政策の緩和により、日系企業及び駐在員が住宅の購入を希望する場合は、リスク回避や節税のため、現地弁護士と共に現地の住宅取引政策を確認し、合理的な取引モデルを構築することが重要です。
   既に名義借り住宅購入により紛争が発生している場合は、速やかに弁護士に相談し、取引状況や契約効力を確認し、対応プランを立てる必要があります。また、ローン支払いの銀行明細や取引記録、名義提供者との交渉記録など、自身が事実上当該住宅を購入・使用し、ローンを支払っているという証拠収集、証拠固めを進め、名義提供者に対し適時に名義変更を要求することにより、発生可能性のあるリスクや紛争を回避することができるでしょう。

作成日:2024年08月20日