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新『会社法』における第三者に対する董事・管理職の賠償責任強化

   董事及び高級管理職(以下「管理職」と略)は、会社のコンプライアンス・ガバナンスに参与する立場にあります。この新『会社法』は、董事や管理職の法的責任について複数回の改正を経て、董事や管理職が第三者に直接責任を負うことを初めて規定しました。今回は、日本本社及び現地日系企業、特に董事、管理職の皆様にご参考いただけるポイントを紹介いたします。

1.董事と管理職が第三者に対して負う直接賠償責任
   原則として、会社の一員である董事や管理職が社外の第三者の利益を侵害した場合、まず会社が対外的に代理責任または雇用者責任を負い、その上で、会社が過失のある董事や管理職に賠償させるという方法が取られます。
   しかし新『会社法』では、董事や管理職の職務上の行為によって第三者に損害を与えた場合は会社が賠償責任を負い、董事や管理職に故意または重大な過失がある場合は当該董事・管理職も賠償責任を負うことを規定しました。つまり董事や管理職に故意または重大な過失がある場合、会社も賠償責任を負いますが、当該董事・管理職も賠償責任を負うことになります。 (新『会社法』第191条)
   ただし実務上は、董事や管理職が負うのは補充責任であり、会社が返済できない範囲について過失のある董事や管理職が補充賠償責任を負う、という見方が大多数を占めています。
   また、会社の支配株主、及び実質的支配者が、会社または株主の利益を損なう行為に従事するよう董事や管理職に指示した場合、当該者も董事や管理職と連帯責任を負う必要がある、という点にも留意する必要があります。(新『会社法』第192条)

2.董事、管理職責任のリスク移転方法
   新『会社法』では、会社は董事が会社の職務執行上負担する賠償責任に対し責任保険に加入することに触れ、会社が董事のために董事責任保険をかけるということを立法上で初めて明確にしました。(新『会社法』第193条)
   この董事責任保険は、董事が引き起こしたあらゆる損害を保険で賠償できるわけではなく、董事が会社の職務執行上で職責を履行できなかった場合、過失により損害を与えた場合にのみ、保険会社が保険責任を負うという点に留意する必要があります。董事による故意、または犯罪などの行為に起因する責任負担については、保険会社が免責するのが一般的です。
   加えて、保険会社が会社若しくは董事が加害者との間で成立した和解金について責任を負うかどうか、あるいは賠償対象となるには訴訟手続をとらなければならないかについても不確定要素があるため、保険会社が引き受ける董事保険の責任適用範囲や免責となる状況については、各保険会社との間で会社が具体的に意思疎通を図ることが必要です。

◆日系企業へのアドバイス
   新『会社法』は董事や管理職の責任を調整し、第三者に対する董事や管理職の直接責任が新規追加され、董事と管理職の義務を事実上、重くしました。これは、中国の現行法規制が会社の董事と管理職に対するコンプライアンス・ガバナンス要求を高めていることを意味します。
   これを踏まえ、内部リスク管理やコンプライアンス体制構築を整備・改善するため、各日系企業は実務経験のある現地弁護士との適時なコミュニケーションにより、最新の法律規定と対処方法に精通することができます。コンプライアンス研修を充実させ、董事と管理職が職務遂行上、遵守すべき法律規定や会社定款、及び負う可能性のある責任を理解し、対応策を検討するなら、会社、董事、管理職が責任を負うリスクを最大限に回避または低減できるでしょう。

作成日:2024年06月07日