企業の受益所有者届出に関する新ルール
4月29日、中国人民銀行と国家市場監督管理総局は『受益所有者情報管理弁法』(以下、『管理弁法』と略)を公布(施行は2024年11月1日から)しました。この『管理弁法』上の「受益所有者の情報届出を企業に要求する」という新たなルールは、国内外の企業や一般市民の間で広範な議論と関心を引き起こしています。
そこで今回は、内資外資を問わず企業が注目している当該『管理弁法』のポイントについて簡単にご説明いたします。
1.どのような企業が受益所有者を届出なければならないか?
『管理弁法』の規定によると、外国企業の分支機構(外国企業が中国に直接設立した代表処など)や会社(外資企業を含む)、またパートナーシップ企業を含む市場主体は、関連登録システムを通じて受益所有者の情報を届出なければならないとしています。 (『管理弁法』第2条)
但し、『管理弁法』の内容と中国人民銀行が出した「『受益所有者情報管理弁法』に関する記者の質問への回答」によると、非会社企業法人、個人独資企業、中国国内会社(外資系企業を含む)の分支機構(支社、代表処、事務所など)は実務においてしばらくの間届出が免除されるようです。
現在の公式回答から見ると、上記の個人独資企業、中国国内会社の分支機構はあくまで「一時的」に届出が免除されているに過ぎない、という点にも留意が必要です。また今後市場監督政策の変更に伴い、中国人民銀行や市場監督総局が受益所有者情報の届出対象範囲を調整する可能性も否定できません。
なお、全ての企業に届出が義務付けられているわけではなく、一定の条件を満たす中小・零細企業については、承諾を受けた後、届出が免除されます。 (『管理弁法』第3条)
2.個人が「受益所有者」であるかどうかはどのように判断するか?
『管理弁法』の規定によると、下記3つの基準のうち一つを満たしている自然人が「受益所有者」である、ということになります。
(1)直接的方式または間接的方式により最終的に届出主体の25%以上の持分、株式またはパートナー権益を有する自然人。
(2)最終的に届出主体の25%以上の収益権、議決権を有する自然人。
(3)届出主体を単独または共同で実質支配する自然人。(第6条)
上記の内容から、届出主体の必ずしも一定割合の持分を保有している自然人が受益所有者に属するということではなく、ある企業を直接または間接的に支配したり、収益が一定割合に達する場合にも『管理弁法』の受益所有者と見なされる、ということが読み取れます。
そのため、実際の業務上において、持分代理保有や、VIEスキーム(契約支配型ストラクチャー)、ホスティングなどに携わっている場合、受益所有者であると認定される恐れがあるという点にも注意しなければなりません。
◆日系企業及び中国資本企業へのアドバイス
この『管理弁法』施行後、中国人民銀行または国家市場監督管理総局は、中国国内の企業(中国資本企業と外資企業を含む)の「受益所有者」の届出に対し監督管理及や罰則を強化することが予想され、これにより会社設立、コンプライアンス業務、投資M&A、IPO上場、税務、外国為替取引などの事項に重大な影響が及ぶ可能性があります。
また、施行前に登記済みの企業については、当該『管理弁法』で1年間の猶予期間(2025年11月1日前までに届出を完了する)を設けています。上記を踏まえ、各日系企業及び中国資本企業が現地の地方政府部門及び中国人民銀行が発表する政策とその実施状況に注意を払い、不必要な行政処分を回避するためにも、適時に現地弁護士との情報交換を進め、自社が届出を提出する必要があるかどうかを見極めた上で、コンプライアンス・スキームを策定する必要があるでしょう。
作成日:2024年05月16日