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新『会社法』における自己取引と関連当事者取引

   このところ、「当社役員の近親者が経営する会社と取引すべきかどうかについて、会社はどう判断すべきか」といった問い合わせが多く寄せられています。
   中国において通常このような状況は、会社の董事、監事、高級管理職(以下「役員」と略)と会社間で行う自己取引(役員個人と会社が行う取引を指す)と関連当事者取引(本文では主に役員近親者個人、役員またはその近親者が支配する企業、若しくは役員と関係のある当事者が会社と行う取引を指す)と見なされます。
   2024年7月1日より施行される新『会社法』(以下「新法」と略)には、自己取引、関連当事者取引に関する規定を補完する内容が含まれています。そこで今回は、日系企業、特に役員を務める皆様が関心を寄せている新法における自己取引と関連当事者取引について簡単に紹介いたします。

1.自己取引と関連当事者取引の規制対象範囲が拡大
   新法改正前は、中国の自己取引規制の対象は、役員と会社が直接行う自己取引に限られていました。今回新法では、自己取引及び関連当事者取引の規制対象範囲が拡大されています。
   本文において自己取引と関連当事者取引は主に以下3種類の取引を指します(新『会社法』第182条)。
(1)会社役員が直接または間接的に会社と行う取引。
(2)会社役員の近親者個人、若しくは役員またはその近親者が支配する企業が会社と行う取引。
(3)会社役員とその他の関連関係にある人が会社と行う取引。
   上記(2)(3)は新法上の新規コンテンツであり、自己取引における狭義適用をある程度回避する目的があります。
   つまりこれは、会社役員の近親者、またはその近親者が支配する企業と会社の取引が新法規則によって制限されることを意味しています。このことから、各日系企業、とりわけ役員に就く社員が当該規則制限に留意することは必要不可欠であると言えます。

2.自己取引、関連当事者取引は「まず報告、その後決議」が前提
   新法では、自己取引や関連当事者取引を行う場合、「まず報告し、その後決議を経る」(新『会社法』第182条)というプロセスを事前に踏まなければならないことになっています。
(1) まず取引に関連する事項を董事会または株主会に報告する。
(2) 更に定款規定に従い董事会または株主会の決議採択を経る。
   旧法では、株主会だけに自己取引や関連当事者取引に対する同意権がありましたが、新法では株主会と董事会に拡大され、具体的決議機関は会社定款で定めることができるとしています。
   但し、上記の報告・決議プロセスを履行したとしても、関連当事者取引を実施した役員などが会社や株主の利益損害に対し責任を負うことに変わりはないため、その取引により会社や株主の利益を損なうことにならないかどうか、具体的なケースと結びつけながら総合的に判断しなければなりません。

◆日系企業へのアドバイス
   自己取引や関連当事者取引を公正に行うなら、会社のコスト削減につながりますが、不公正な自己取引や関連当事者取引は、会社、株主、債権者を含む各当事者の利益損害を招く恐れがあります。
   そのため各日系企業において、役員及びその近親者が自己取引や関連当事者取引を行うための必要手続きについて定款上で限定し、定款又は株主の決定に違反して取引を行った場合の法的結果についての約定を含めることが有効と言えます。例えば、「株主会または董事会の決議を経ていない取引については、その取得した所得は会社に帰属する」と約定することもできます。
   役員と会社間の自己取引や関連当事者取引関連の企業コンプライアンスは、今後も日系企業が取り組むべき重要課題の一つとなることでしょう。

作成日:2024年05月27日