新会社法と株主が支配する関連会社の連帯責任
新『会社法』は2024年7月1日より施行が開始されます。このうち新『会社法』では、株主が支配する子会社(支社)同士が連帯責任を負う制度(即ち、水平的な法人格否認)が新たに設けられ、社会や企業から熱い注目を集めています。
原則として有限会社は会社の債務に対して、その所有資産を用いて独立して責任を負い、株主はその出資額を限度として会社債務に対する有限責任を負います。しかし、株主が会社の独立した法人格と有限責任を悪用し、債務を逃れようとする場合には、株主は会社の債務に対して、無限連帯責任を負うように要求される可能性があります(即ち、垂直的な法人格否認)。
今回、弊所は新たな水平的な法人格否認制度について簡単に紹介し、日系企業の皆様のご参考に供します。
1.株主が支配するグループ会社間の債務負担
実務では、とりわけ企業グループにおいて、株主が複数の子会社を支配し、資金や人員を複数の子会社間で移動させ、悪意を持って一社または複数の会社の債務を逃れ、債権者の利益を損なう可能性があります。債権者の利益を保護するため、上記のような状況が発生した場合には、新『会社法』では株主が支配する子会社間で相互の債務に対して無限連帯責任を負うことを規定しています(新会社法第23条)。
会社の株主及び関連会社の間で会社の独立した人格や株主の有限責任を濫用して債務を逃れる悪意がない場合には、その株主及び株主が支配する子会社は無限連帯責任を負う必要がないことについて留意する必要があります。
2.株主または株主が支配する会社が連帯責任を負う場合
最高人民法院が発布した「九民会議」の議事録を参照すると、実務上、通常、以下の3種類の状況下で、株主または株主が支配する子会社間で相互に責任を負う可能性があります。
(1)法人人格の混同、最も主要なのは会社の財産と株主または株主が支配する他の子会社の財産を混同し区別できないことであり、同時に、業務または人員の混同がある状況も留意する必要があります。例として、株主が会社の資産を用いて自己の債務を返済したり、財務記録を行わずに関連会社に提供したりするなど。
(2)株主から過度な支配とコントロール、例えば、①親会社と子会社、また同一の株主が支配する子会社の間の利益供与②親子会社や同じ株主が支配する子会社の間で相互に取引し、収益は一方に帰属させるが、損失は他方が負担するなど。
(3)会社の資金が明らかに不足しており、株主が少ない資本でその能力以上の事業を行い、そのリスクを債権者に転嫁する場合など。
実務上、会社と株主または株主が支配する他の子会社との間で業務や資金のやり取りを行う場合には、事実に即した財務記録を行うことで、連帯責任を相互に負うリスクがある程度軽減される可能性もあります。
上記のいずれかの状況が発生すると、必然的に株主または株主が支配する子会社が連帯責任を負うだけではなく、具体的な状況に応じた総合的な分析・検討が必要であることに留意が必要です。
◆日系企業の皆様へのアドバイス
今回の新『会社法』で新たに追加された水平的な法人格否認制度は、中国に複数の子会社がある日本本社や現地の日系企業にとって、責任を負うリスクが高まるとも言えます。
そのため、各日系企業は実務経験のある弁護士とコミュニケーションをとり、必要に応じて最新の法律規定や実務への対応策を考える必要があります。
即ち、会社と株主または株主が支配する他の子会社との間に法人格の混同や関連取引がある場合、いかにして法に則した業務、資金、人員の往来を行い、株主が会社債務や株主が支配する子会社に対して相互に連帯責任を負うことを回避することなど、日系企業各社が検討すべき重要な課題の一つとなるでしょう。
作成日:2024年05月11日