法定代表者の法的責任(2): 懲戒の具体的状況について
ここ数年の間で、中国政府と司法部門が「高額消費制限」、「ブラックリスト」、または「信用喪失被執行者」などの信用喪失リストアップ措置を、企業の法定代表者または責任者に対し実行したことは、日系企業から、また日系企業の法定代表者の皆様からも大きな注目を浴びています。では、どのような場合に法定代表者個人が懲戒や制限措置に直面し、責任を負うことになるのでしょうか。今回は法定代表者が負う可能性のある懲戒や制限措置について、日系企業の皆様、法定代表者様にご参考いただける具体的な例を紹介したいと思います。
1.出国制限
法定代表者自らが法に抵触する行為により懲戒を受ける以外にも、企業が実施した行為が元で、法定代表者が出国を制限また禁止された以下のようなケースがあります。
(1)企業が他者から強制執行を申請された、または会社に未解決の民事訴訟があったケース。
(2)企業に税金の未納、且つ未清算の税金、延滞金があり、担保提供がないケース。
(3)企業が税関の処罰を受け、罰金が未納で、税関に相当額の担保提供がないケース。
これは上記に挙げた行為や状況がある場合にのみ、法定代表者が出国制限されるという意味ではありません。いずれにせよ、企業が法的要求に正しく対応し、執行に従うのであるならば、法定代表者が出入国の制限を受けるということはないでしょう。
2.消費制限
企業が「信用喪失被執行者」または「ブラックリスト」にリストアップされた場合、法定代表者が仕事、生活の多方面で、以下のように様々な制限やマイナスの影響を受けることがあり得ます。
(1)法定代表者の情報が国家信用情報サイトで公示されるため、法定代表者個人の評判に悪影響が及ぶことになります。
(2)法定代表者は高額の金銭消費を制限され、以下の行為を行えなくなる可能性があります。
① 航空機、列車の一部等級の使用
② ハイクラスホテルの宿泊、ゴルフ場での消費
③ 家屋の購入や増築、商用外の車両の購入
④ 旅行・バカンス
⑤ 高額私立学校への子女の通学
⑥ 高額な保険料支払による財テク保険商品の購入。 (『被執行者の高額消費及び関係消費制限に関する最高人民法院による若干の規定』第3条)
3.懲戒に至らない状況
すべての訴訟や企業の違法行為が法定代表者への懲戒に至るわけではありません。
(1) 企業の債務関係訴訟により必ず法定代表者が懲戒を受けるということではありません。訴訟の勝敗は企業が業務の過程で直面する状況に左右されます。企業として、その果たすべき義務をしっかり履行するなら、法定代表者は懲戒や制限を免れることができるでしょう。
(2)経営不振で企業が数カ月間納税申告しなかったことが原因で、税務機関から非正常と認定された場合、一般的に法定代表者は懲戒されません。企業に重大な税収違法行為(帳簿の偽造廃棄、インボイス偽造、脱税など)があった場合にのみ、法定代表者が処罰される可能性があります。
◆日系企業及び法定代表者の皆様へのアドバイス
上記で挙げた情報からも、法定代表者は自身及び企業による様々な行為が元で、出国や消費、または企業役員としての行動等で制限を受ける可能性があることが分かります。企業が実際に政府当局の処罰や債権債務紛争に直面する可能性がある場合は、現地の弁護士と意思疎通を図ることにより対策を検討しながら政府当局や裁判所との抗弁や交渉を進めるなら、法定代表者個人が責任を追及されるのを防ぐことができるでしょう。
なお、企業が信用喪失の「ブラックリスト」に登録された後、合法的なコンプライアンス手段により「ブラックリスト」から外れることも可能で、弊所はこの方面において経験豊富のため、必要な場合は、随時ご連絡ください。
作成日:2023年08月25日