中国の定年延長が現地企業に及ぼす影響
2023年2月の中国中信証券の報告によると、中国の定年延長案は、2023年に公布、また2025年に正式に実施され、2055年前後までに、65歳の男女の同年齢定年が実現します。中国の少子高齢化問題が深刻化し、年金不足が徐々に拡大するにつれ、中国も日本と同様、定年延長に関わる問題に直面することになります。
多くの駐在員が、中国の定年延長実施が現地企業に及ぼす影響に関心を持っていることから、本文では、抜粋した以下のポイントについて説明いたします。
1.企業の経済的負担が強まる
高齢従業員の生産性は、青壮年従業員よりも一般的に低くなります。特に製造業など体力面で高い要求がある業界や、イノベーション能力の高い要求がある新興ビジネス業界が、高齢従業員を受け入れ社会保険を納付することは、企業の収益水準低下や、企業の負担増加につながります。
また、従業員の在職中の疾病治療や、労災治療、労災死亡、それ以外の保障給付(例えば病気休暇や労災期間の給与、葬儀代など)を企業が負担しており、定年延長に伴って企業が負担するコストも増加します。
2.企業の生産性に与える影響
定年延長後に、高齢従業員の多くが引き続き労働市場に留まることは、一部の若い労働者の昇進を妨げる可能性もあり、これは若い労働者の労働意欲や、作業効率を低下させる要因となり得ます。さらに、定年延長後も指導的職務を継続する一部の高齢従業員が、体調などの原因で、業務により多くのエネルギーをつぎ込めなくなることもあり、作業効率も低下することがあります。
◆日系企業へのアドバイス
日本とは異なり、中国では現在、60歳近くになって従業員の賃金を下げる制度や慣例が確立されておらず、これは明らかに現地企業の負担を増大させています。現地企業は、中国の最新退職政策を注視すると共に、日本本社の60歳以上の従業員に対する賃金支払い方法を参考にし、従業員の能力と貢献度を定量化し、それに基づいた待遇の賃金体制を確定することを早期検討すべきです。ただし注意が必要なのは、賃金待遇の変更は労働契約の変更項目であるという点で、慎重を欠くと労働争議に発展するため、実施する前に、弁護士に相談することをお勧めします。
また、中国労働法では、定年に達していない従業員は「労働者」であり、雇用単位と従業員は労働関係に属するため、労働契約締結が必須で、雇用単位には社会保険の納付義務が規定されています。一方、定年に達した従業員は「労働者」には属さず、使用者が退職後も雇用を続ける場合、その法律関係は平等と民事主体との民事関係に属し、民事契約を締結するため、使用者が社会保険を支払う必要はありません。定年年齢の変化は、従業員と締結する契約の種類及び現地企業の義務に影響を与えるものであり、企業は、定年を迎える従業員との契約締結状況をセルフチェックし、契約に瑕疵がないかどうかの審査を弁護士に依頼するとよいでしょう。
作成日:2023年02月15日