新たに改訂された『独占禁止法』と実務上のポイント
2022年8月1日より、全人代常務委員会が6月に改訂した『独占禁止法』が施行されます。これは『独占禁止法』が2008年8月1日に施行されてから14年来初めての改訂となります。今回は、独占禁止規則の一部に対して大幅な修正が行われました。企業の生産経営や対外的な取引、業務管理に重大な影響が及ぶことになるため、今回は、そのポイントの一部を説明いたします。
1.企業の独占合意に対する抗弁事由が増加
今回の改訂では、企業の転売価格の維持合意に対する抗弁事由が増えました。即ち企業が当該転売価格の維持合意が競争の排除や制限する効果を持たないことを立証出来る場合、禁止しないと規定されました。(第18条第2項)
実務においては、企業から代理店や取次販売業者に固定された転売価格や、最低価格を限定する通知を送り、独占禁止取締機関から独占合意を構成したと認定され処分を受けるケースは少なくありません。本法が改訂されますと、独占禁止取締機関は、更に企業から縦型独占合意に対する競争効果についての陳述や抗弁を聞く可能性があります。企業は、独占禁止取締機関と意思疎通を図り、その行為に市場競争を制限する効果がなく、小売価格の高騰をもたらしたり、消費者の利益等を損ねておらず、その行為が違法ではないことを説明できるようになりました。
2.縦型独占合意への「セーフティ・ハーバー」制度を新設
今回の改訂では、独占合意に対して「セーフティ・ハーバー」制度を新設し、独占合意を達成した経営者が関連市場における市場占有率が法定の基準を下回る(6月27日に公布された『独占合意禁止法』(意見聴取稿)第15条の規定を参照すると、前述の法定基準は15%で、国務院の独占法執行機関により別途定められている場合を除く。)ことを証明出来る場合、原則として禁止しないと規定しました。(第18条第3項)
こうなれば、中小企業の一部が直面している縦型独占合意のリスクが低下する可能性があります。企業は、自らの製品の売上高や販売量などのデータを踏まえ、その製品の市場占有率を総合的に分析し、弁護士と対策を検討し、共同で独占禁止取締機関に説明を行うことができるようになりました。
3.独占行為の罰金額が大幅アップ
これまで、独占禁止取締機関は、企業が独占合意を達成したものの、実施していない場合、最高で50万元の罰金を科すとしていましたが、改訂後の罰金額は、最高で300万元に引き上げられました。違法に企業結合を実施した場合、たとえ競争を排除や制限する効果を持たない場合でも、最高で500万元の罰金が科されることになりました(第56条、第58条)。
また、今回の改訂では、倍数罰金の条項も追加されました、即ち事由が特に著しく、影響が特に悪質で著しい結果をもたらす場合、独占禁止取締機関が関連する罰金額の2倍から5倍の処分を行うことができるようになりました。(第63条)
◆日系企業の皆様へのアドバイス
今回の『独占禁止法』の改訂では、中国政府による今後一定期間の重点的な取り締まり分野(インターネット・国民生活・金融・科学技術・メディア等の分野における経営者集中審査の強化)が明確にされました。このため、各企業は所属分野の独占禁止取り締まり運動の強化に注目する必要があります。
今回の『独占禁止法』の改訂は、独占禁止に関する規則の整備と修正を行うものですが、若干原則的な表現も残っています。日系企業の皆様には、適時『独占禁止法』の細分化規制となる関連法に注目していただき、商業行為に伴う独占禁止リスクを評価し、コンプライアンスの観点から調整を行うことをお勧めいたします。当局から調査を受けた場合、適時弁護士と対応策を検討し、取締機関と意思疎通を行い、規則を合理的に運用して企業に対する処罰を軽減するか免除してもらえるよう交渉すると良いでしょう。
作成日:2022年08月18日