「ロング・アーム管轄」に対抗する新規則の公布
今年1月9日、商務部より『外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する弁法』(以下『弁法』という)が公布され、同日より施行されました。
『弁法』は、米国等の国家による「ロング・アーム管轄」の不当な適用に対抗し、外国の法律や制裁措置による中国の企業(外商投資企業も含む)の適法な利益を保護するために制定されました。『弁法』では、主に適用範囲、業務メカニズム、評価プロセス、司法救済等について規定され、日系企業への影響の大きい内容も少なくないため、今回は『弁法』のポイントと留意点についてご紹介いたします。
◆『弁法』のポイント
1.適用範囲
『弁法』は主に、中国の企業、個人、その他の組織(以下まとめて「中国の実体」という)と「第三国の企業、個人又はその他の組織」(以下「第三国の実体」という)の正常なビジネス活動等に「不当な制限又は禁止」をもたらす外国の法律及び措置に対する評価対応をし、域外の法律及び措置による中国の企業、個人の合理的権益に対する侵害を阻止するものとなっています。
2.所管機関
外国の法律及び措置の不当な域外適用に対する評価等を行う業務メカニズムは、国務院商務所管機関が主導し、具体的事項は国務院商務所管機関、発展改革機関がその他の関連機関とともに担当します。
3.「ロング・アーム管轄」対抗の措置及び手順
(1)企業より商務所管機関へ速やかに報告
中国の実体が、その第三国の実体とのビジネス活動に外国の法律及び措置による禁止や制限を受けた場合、30日以内に国務院商務所管機関に報告しなければならないとされます。各日系企業にとり当該報告は権利ではなく義務であることに注意する必要があり、法通りに報告をしないと警告、罰金等の処罰を受ける可能性があります。
(2)禁令の発布、遵守、免除
国務院商務所管機関では、関連の要素に基づき外国の法律及び措置に不当な域外適用が存在するかどうかを評価したうえで、当該外国の法律及び措置を認めてはならない、執行してはならない、遵守してはならない旨の禁令を発布するかどうか決定します。
禁令を発布した後、中国の企業(外資系企業を含む)は当該禁令を遵守しなければならず、遵守しないと警告、罰金等の処罰を受けます。ただこれにも例外があり、例えばある中国企業において当該外国の法律又は措置を遵守しないと国外から注文や取引が大幅に縮減し、重大な損失を被るという場合には、当該企業より国務院商務所管機関に対し、その禁令の遵守免除を申請することができるとされています。
◆留意点
1.一定数の専門家には、『弁法』は、外国の法律及び措置による、その本国の公民、法人又はその他の組織(以下「外国の実体」という)と、中国の実体との間のビジネス活動には適用されないものであると認識されています。
2.外国の法律及び措置が「不当な域外適用」に当たるかどうかの具体的判断基準については、今後国により実施細則を制定するか、後続の法施行、司法の判例によるガイドラインが示される可能性があります。
3.中国の企業に応じて国務院商務所管機関に禁令遵守免除を申請することはできるが、『弁法』では企業に免除申請の理由を説明するよう要求しているのみで、理由についての具体的な制限はなく、商務所管機関による免除の決定を受けられるかどうかについては、今後の具体的な実施細則による規定の制定が待たれます。
◆日系企業へのアドバイス
『弁法』の公布は他国による不当な「ロング・アーム管轄」に対抗するための枠組的ガイドラインを提供したものであり、一定程度において国や企業の適法な権益を保護するものとなっています。例えば、A社が外国の法律及び措置を遵守したことによって中国のB社の適法な権益が侵害された場合、B社は中国の裁判所に対し、A社に対しその損失の賠償を請求する訴えを提起することができます。
しかしながら、『弁法』では求償制度について原則的な規定を設けたのみで、賠償の範囲、求償の手段ならびに法律の適用等にかかる具体的な実務操作に関しては、なお国からの実施細則の制定もしくは法執行、司法実践による明確化が待たれる問題となっています。このため、各日系企業では『弁法』にかかる実施細則の制定及び執行に随時注目し、関連のコンプライアンス対応策を早期に検討、策定していくことをお勧めいたします。弊所でも関連の動きに注目し、新たな情報があり次第、速やかに皆様と共有させていただきます。
作成日:2021年01月21日