録音を証拠として利用する際の留意点
証拠が、裁判で裁判官が事実認定をする際の重要な根拠となることはよく知られている通りです。どんな事件の審理の過程においても、当事者は、証拠と完全な証拠チェーンによって事件の真相を復元する必要があります。しかし現実の生活の中で、証拠は往々にして想像ほど完璧なものにはならず、現実の行為から形成された事実の根拠には様々な瑕疵が存在し、証拠として使用できないこともしばしばあります。このようなときに、録音によって欠陥や不足を補う必要が出てきます。
◇ケース
ある外資系企業の従業員は、長期の病気休暇を取得し、会社には出勤していなかった。会社が調査したところ、当該従業員はひそかにパン屋を開店し、その商売も繁盛している。会社は当該従業員の懲戒解雇を決定したものの、十分な証拠が収集できず、従業員が仮病によって病気休暇を取得していた事実を、録音により証明しようとした。会社が当該従業員と親しい複数の同僚に当該従業員が経営する店を訪ねさせたところ、雑談の中で、当該従業員はうっかり自分が仮病で病気休暇を取得してパン屋を開業したという事実を漏らしてしまった。同僚の一人がこの会話を録音しており、この録音記録を仲裁委員会に提出し、仲裁委員会ではこれが信用されて証拠として採用された。
ここで、全ての録音が証拠として使用できるかというと、そうとは限らず、法定の要求に合致している必要があります。次では、証拠が裁判所に採用されるかどうかという観点から、録音を証拠として利用する際に注意すべき5つのポイントを分析いたします。
ポイント1:録音の取得方法が適法である
録音による証拠は、比較的手軽で有効な補充証拠です。通常は、直接証拠が不足する状況において形成され、証拠の採取過程が表面的に見つかりにくく、録音対象にもそれほど警戒されないことにより比較的容易に取得できますが、取得の方法には注意を払う必要があります。
①他人の適法な権益を侵さない。個人のプライバシー及び個人の生活を妨げないことが含まれます。例えば、録音対象の勤務場所又は住所において盗聴することにより録音データを取得した場合は、他人のプライバシーの侵害に当たるため、取得した録音を証拠として使用することはできません。
②法律の禁止規定に違反したり、脅迫、暴力、違法な拘禁等の方法で取得した録音は証拠として使用できない。例えば、ある外資系企業では従業員が業務に堪えないことを理由に労働契約を解除しようとしましたが、法廷審理の際に提出した録音の中に、人事課長が従業員を脅迫する内容が含まれていたため、この録音は証拠として使用できませんでした。
ポイント2:録音の対象が相手側の当事者である
①録音の対象は、義務を負う側である必要がある。これは、義務負担者本人の会話でないと拘束力を持たないからです。実際には、録音が本人のものであることを認めない者もいますが、司法鑑定を通じて録音対象の音声及び話者の身元を鑑定することができます。
②録音対象者が誰であるかが録音からわかるようにする。録音する際には、できるだけ相手の氏名を呼ぶようにし、相手が法人の場合、法定代表者を録音の対象とします。
ポイント3:録音データの内容が他の証拠によって裏付けられる
『民事訴訟の証拠に関する最高裁の若干の規定』第70条第(3)号によれば、「証明の証左となる、その他の証拠があり、なおかつ適法な手段で取得した疑義のない視聴覚データ又は視聴覚データと照合して誤りのない複製物」について、相手側当事者が異議を申し立てたとしても、反駁に足る反証がない場合、裁判所はその証明力を確認しなければならないとされています。このため、録音による証拠は単独で証拠として提出することはできず、その他の証拠を証左とする必要があります。当事者は、出所が適法で、疑義のない録音データを提出するほか、可能な限りその他の証拠資料を提出することによって録音データが証明する事項の証左とし、録音という証拠の証明力を増強する必要があります。
ポイント4:録音の内容が正確で誤りなく、録音対象の真実の意思が反映されている
①録音の際、録音内容が正確で誤りがなく、事実の全ての内容を証明できることを保証しなければならない。このため、証拠取得の前に十分な準備作業を行う必要があります。例えば、証拠を取得する事項と相手側に認めさせたい事実を整理し、提示する問題や相手側が取りうる態度、いかにして相手側の態度表明を引き出すかをよく検討しておきます。よいタイミングがきたと思ったら、できる限り録音対象に事実について明確に発言させ、録音証拠の信頼性を高めるようにします。
②録音する際には、脅迫、暴力といった違法な手段を採用してはならない。録音対象の真実の意思表示であることを確保する必要があります。そうでないと、録音対象が録音された内容を認めず、裁判所にも違法に取得された証拠は採用されません。
ポイント5:録音の内容が真実かつ完全で、原始記憶媒体の中に毀損なく保存されている
①録音は、視聴覚データの一種であり、もとより偽造の疑いがあり、採用される可能性が比較的低いものである。裁判所が録音された証拠を審査する際にも、録音データの真実性、一貫性を審査し、これにより録音された証拠が編集、偽造、改ざんされていないかどうかを判断します。提出した録音データが不完全であるか、編集の痕跡がある場合、裁判所に認定されません。
②証拠の保管上の不注意。当事者が、録音の内容をコンピュータにコピーした後、携帯電話又はICレコーダ等に存在していた原始録音媒体中のデータを削除してしまい、法廷審理の際、原始録音媒体の録音を再生できず、裁判に負けてしまうというケースもあります。このように原始録音媒体は非常に重要なものであり、注意して保管する必要があります。原始録音媒体の録音データをコピーした後も、不用意に削除してしまわないようにします。
以上は弁護士の経験からまとめた、録音証拠に関する注意事項となります。実務の中で具体的状況に合わせて適宜ご参照いただければと思いますが、録音証拠はあくまでセカンドベストの選択となであり、後で取り返しのつかない事態とならないよう、経営活動においては日頃より書面の直接証拠を保管しておくのが、まず心がけたい日常の対応です。
作成日:2018年03月14日