他人の名をかたっていた従業員に労災が発生した場合
Q1.青島の日系企業です。生産経営上の必要から、採用する従業員には年齢制限を設けています。従業員Aは、年齢が当社の要件に不適格であったため、妹の名前を使って労働契約を締結していたうえ、当社では、従業員Aが提出した身元情報に基づいて社会保険料を納めていました。労働契約期間中、従業員Aは帰宅途中に交通事故に遭って労災と認定され、労働能力鑑定を受けさせたところ、9級の後遺障害との結果が出ました。当社は、従業員Aの労災認定を申請する時になって、初めてAが他人の身分をかたっていたことを知りました。当社が従業員Aと締結した労働契約は有効でしょうか。
A1.『労働契約法』第26条により、一方が詐欺の手段により相手側の真実の意思に背く状況で労働契約を締結した場合、契約を無効とするとが規定されています。従業員Aは、他人の身分をかたり、会社の真実の意思に背く状況で労働契約を締結したのですから、契約は無効となります。
Q2.労働契約が無効となる場合、当社は従業員Aに労災に伴う費用を支払う必要があるでしょうか。
A2.労働雇用関係は、一般的な民事関係とは異なり、労働契約が無効になったとしても、双方間の労働関係がこれに伴って無効になるとは限りません。会社が従業員Aと締結した労働契約は、従業員Aの詐欺行為によるもので無効な契約となりますが、『労働契約法』第7条の「使用者は、使用を開始した日から労働者と労働関係を確立する。」という規定に基づき、会社と従業員Aの間には事実上の労働雇用関係が存在しています。
『労災保険条例』第18条第(2)項では、事実上の労働関係が存在するならば、労災認定を申請できると規定されています。今回のケースにおいても、従業員Aは労災と認定されました。また、『労災保険条例』第33条、第37条の規定により、会社は、労災を被った従業員の賃金維持・業務停止期間中の賃金及び看護費用を負担する必要があり、7級ないし10級の後遺障害を負った従業員との労働契約を解除又は終了する際には、後遺障害就労補助一時金を支給する必要があります。このように、会社と従業員Aの労働契約が無効でも、双方間の事実上の労働関係に基づいて、会社は『労災保険条例』の関連する規定により関連費用を支給する必要があります。
Q3.身分情報が一致しないとして、労災保険機関から従業員Aへの労災保険金の支払いが拒否されました。これについて従業員Aより当社が負担することを要求された場合、どうすればよいでしょうか。
A3.従業員のために社会保険料を納付することは会社として履行しなければならない法的義務です。今回のケースにおいて、会社は従業員Aの提示した身分情報に基づいて社会保険料を納付しているため、雇用者として履行すべき義務を完全に履行しています。労災保険機関が従業員Aに労災保険金を支給しない理由は、従業員Aが他人の身分をかたったためであり、会社に過失はありません。従業員Aは、完全民事行為能力者として、他人の身分情報をかたったことでもたらされた結果を認め、その結果を負担するべきです。従業員Aが労災保険基金から支払われるべき労災保険金の負担を会社に要求することは、公平原則、ならびに労災保険制度が雇用者の労災リスクを分散する目的に反しており、不合理です。
このようなことから、企業で従業員を採用する際は、不正を防ぐために応募者の身分、学歴、健康状態等に関する情報と証明書類を入念に確かめ、事実の通りに記入させ、提出する情報及び書類の真実性を保証させるようにするとともに、提出された証明書類は会社で適切に保存・保管するといった注意が必要となります。
作成日:2017年03月16日