ーHOT NEWSー☆☆2016年度の「賃上げ」は慎重な傾向
記者が集計したところによると、2015年度に中国各地で発表された賃金ガイドラインは、2014年度に比べて横ばいか下方修正されたものが多く、こうした傾向は、すでに2年続いている。ある調査研究機関の予測では、経済の下振れ傾向が続くなか、企業の収益の見込みは萎み、支払能力も下がっているため、昇給回数を減らし、賃金引き上げ対象者を絞るといった方法により、経営負担の軽減策を講じる企業がますます増えている。雇用環境が厳しくなる中で、2016年度には多くの企業が賃金引き上げに慎重な姿勢をとるものとみられる。
賃金ガイドラインは、全体的に引き下げへ
企業の賃金ガイドラインは、基準ライン、上限ライン(警戒ラインともいう。)、下限ラインからなる。これは、当年度の経済発展統制目標に基づき、政府から企業に対して発表される年間の賃金上昇レベルの提案であり、強制力を持つものではないが、企業と従業員の間での団体交渉や、企業が自ら賃金上昇レベルを決定するにあたって参考データとすることができるものである。
記者の行った集計によると、2015年度に中国各地で発表された賃金ガイドラインは、2014年度に比べて横ばいか下方修正されたものが多い。例えば、北京市における2015年度の賃金上昇の基準ラインは、前年の12%から10.5%に下げられ、上海市では2015年度の基準ラインは10%で前年比で2ポイント引き下げられ、広東省では2015年の基準ラインは8.5%で、前年比0.5ポイントの引き下げとなった。新疆ウイグル自治区、天津市、山西省、陝西省の4つの省と市における基準ラインはいずれも3ポイント引き下げられ、下げ幅が最大となった。政府の制定する賃金ガイドラインが引き下げられたほか、調査研究機関のデータからも、経済成長の鈍化と雇用情勢の変化が、賃金報酬の伸びに影響を及ぼしていることが窺われる。
求人サイトを運営する「前程無憂」がこのほど発表した「2016年の離職と賃金調整に関する調査報告書」によると、2015年度の中国経済は、全体的な安定基調のもとで下降傾向が続いており、企業の投資状況及び収益状況はいずれも大きな影響を受けていると指摘している。2015年度は、多くの地域で企業の賃金ガイドラインの上昇率が横ばいか下方修正されており、昇給に慎重な企業が多く、2016年度の昇給幅はさらに小幅なものとなる見込みとなっている。
こうした動きは、政府側のコメントとも合致するものとなっている。雲南省では2015年の企業賃金成長の上限ラインが17%、基準ラインは10%、下限ラインは3%であり、それぞれ2014年度比で1ポイント、2ポイント、1ポイントの引き下げとなった。これについて、雲南省人力資源社会保障庁は、2015年全年を通して、雲南省では経済の下振れ圧力が高く、企業の経営と発展に困難がもたらされ、政府にとっても雇用を促進し、安定成長を促しにくい状況があったとし、2015年度の同省のGDP、労働生産性、消費者物価指数等のマクロ経済発展の統制目標は、2014年度に比べていずれも明らかに低い値となったとしている。
事実、過去のデータにおいても、経済動向と賃金の変動には比較的はっきりとした相関関係が認められる。タワーズワトソン社が発表した調査報告書によれば、中国企業の年間賃金の伸び率は、2011年に11.6%のピークを迎えた後から鈍化を始め、2012年からは一桁台の成長となり、2012年度から2013年度にかけては約9%、2014年度は8.8%となった。
求人サイトを運営する「前程無憂」のデータによっても、2015年度の企業賃金上昇率は7.6%で、2014年に比べ0.5ポイント引き下げられたことが示されている。さらに2016年度の企業賃金上昇率においても下降傾向がなお続くとして、7.3%までの引き下げが見込まれている。
業界間の昇給幅に明らかな分化傾向
2015年度、中国経済は「新常態(ニューノーマル)」時代に入り、経済は高度成長から安定成長段階に入り、製造業等の一部の企業では経営形態の変更に伴い業績が低下している一方で、インターネット関連や生物医薬等の業界では「逆風に負けずに」急速な発展を遂げており、業界間において昇給幅に明らかな分化傾向がみられる。
前掲の「2016年の離職と賃金調整に関する調査報告書」によると、中国の金融市場の急激な発展に伴い、人材獲得競争が激しさを増し、業界では高額報酬やインセンティブ・ストック・オプション等で人材を惹きつける「人材争奪戦」が繰り広げられた。その結果、金融業界の昇給スピードは群を抜いている。ビッグデータ及び「インターネットプラス」の振興という背景のもと、ハイテク業界では再び多くの発展のチャンスが到来しており、それに伴って従業員の賃金水準も上昇している。また生物医薬業界の安定的な発展によって、従業員の昇給を支えるための確かな物的な基礎がもたらされている。中国経済がサービス型経済への転換を遂げつつある中、近代的サービス業が経済成長を牽引する役割を果たし、従業員賃金も安定上昇傾向を示している。しかし同時に、製造業はかなり顕著な打撃を受けており、企業によっては生産過剰、稼働率低下、一部の担当職の廃止や職能の範囲縮小といった事情のために、昇給幅が鈍化している。
産業のレベルアップに伴い、専門的な人材の供給不足が続いている。このことは企業間の人材争奪競争の焦点となっているため、従業員の賃金上昇率が高止まりする状況があり、専門的な技術をもつ者の昇給幅は依然として他に比べて高く、9.7%に達する見込みである。このほか、「人口ボーナス」の効果が次第に失われ、出稼ぎに出ていた労働者が故郷に戻り農業に従事するようになったことや、産業構造の変化等によって第一線の労働力となっていたワーカーの供給不足が拡大した。そのため日増しに深刻化する「ワーカー不足」の問題に直面する企業では、賃金を引き上げることで生まれる競争力に頼って労働者を確保するよりほかなく、さらに最低賃金基準が絶えず引き上げられるといった要素もあり、現場のワーカーの賃金も高い上昇率を維持されるという結果がもたらされている。
「百度文庫」と中国薪酬ネットが共同で発表した報告書によると、2015年度において賃金上昇率が最高となった三大業界は、ハイテク(16.1%)、金融(15.5%)、医療・薬品(12.1%)であった。一方、生活消費財取引、エネルギー化学の二大業界ではそれぞれ7.9%、8.5%と伸び率が鈍化している。
人材派遣会社の「智聯招聘」が提供しているオンラインデータによると、2015年度の第4四半期における求人段階で掲示する賃金水準ランキングの上位10業界のうち、専門サービス/コンサルティング(財務会計、法律、人材等)業界が平均月賃金10,634元で首位、次点がファンド/証券/先物取引/投資業界で平均月賃金9,204元、第三位は仲介サービスで、平均月賃金は8,658元となっている。
企業の賃金引き上げの回数減少、対象者の縮小
経済構造の改革が進み、最大の雇用受け入れ能力をもつ第三次産業の国民経済における地位が上昇していることから、中国の雇用情勢は楽観視できるというのが、大方の見方となっている。ただ、中国は将来、経済成長と「雇用の弾力性」がともに低下するという二重の困難に直面することになる可能性があると指摘する専門家もいる。そのような事態がもたらされる原因として、1点目に労働生産性の急速な向上で、中国の雇用の所得弾力性が長期的に低下する傾向にあること。2点目に近代的サービス業の発展はさらに加速するが、雇用を創出する能力は相対的に乏しく、第三次産業全体の雇用創出能力が期待値に及ばない可能性があること。3点目に、第一次産業、第二次産業の労働力流出が加速し、産業間の労働力移転を第三次産業で受け入れる負担が増大することを挙げている。
雇用問題が高まる中、2016年度は多くの企業が昇給に慎重な姿勢を取っている。「前程無憂」が発表した報告書によると、2016年度に年間で1回昇給を行う企業の割合は2015年度比で小幅に0.4ポイント低下して69.9%となっており、2016年に2回以上の昇給を行う企業の割合は0.6ポイント低下して15.6%となっている。このことから、企業が人件費及び経営コストの増大に耐える中、複数回の昇給を予定する企業は明らかに減り、大部分が年間を通じて1回のみの昇給を行う方針を取っていることが窺える。昇給の対象者の範囲についても2016年度には50%を下回る企業の割合が著しく増加すると予測されるとともに、昇給の対象者の範囲が50%以上となる企業が減少すること見込まれるため、2016年度は昇給の適用範囲が全企業において狭められることになる見込みである。
報告書では、マクロ経済の下振れ傾向のもと、企業の収益の見込みは萎み、支払能力が低下するため、昇給回数を減らし、昇給の対象者の範囲を絞るといった方法により、経営負担の軽減策を講じる企業がますます増え、企業の限りある昇給の原資は、重要性の高い職位やコア人材に絞り支給されるものと見ている。
中国社会科学院人口労働経済研究所の張車偉副所長は、現在の企業賃金ガイドラインの上昇率低下は、目下の経済成長鈍化、企業の雇用コストの上昇及び収益性の低下が主な原因であると見て、現状のような経済の下振れ圧力が大きい状況では、企業の税負担を軽減し、企業に昇給を実施するだけの余地と能力を提供する必要があるとしている。
事実上、人件費はすでに融資コストに代わる最大の資金負担源となっており、福利厚生の支出による負担が重いことに加え、税負担があまりに嵩むという実感を、企業は抱いている。これについて、中央経済活動会議では企業の負担を軽減するアイデアが打ち出され、実態経済である企業のコストについて、制度規制に関するコスト、税負担、社会保険料、財務コスト、電気料金、物流コストの低減を含む「複合的なアクション」を展開する必要性が提起されている。
(経済参考報より)
作成日:2016年04月25日