有名人の犯罪情報の公開の是非についての専門家の意見- プライバシーは非公開とすべきである-
【専門家の見方】
警察による黄海波(中国の俳優)の買春処分は法的根拠に基づき、差別なく平等に執行されている。警察は違法性を確認するのみで写真は公開しておらず、買春の詳細についても侮辱的な言葉は使用していないため、ここに権利侵害は存在していない。
しかし買春の処分は重大なプライバシーに該当するため、公権力がみだりに有名人のプライバシーを公開することが適切か否かは検討に値する。
【ニュース再録】
5月16日午後7時、北京警察署のオフィシャル・ウェイポー(中国式ツイッター)「平安北京」は、次の情報を公開した。あるメディアから、「俳優の黄海波が買春容疑で拘禁された。」という情報は本当か?という問い合わせを受けた。確認したところ、5月15日午後6時頃、北京警察署は市民からの通報に基づき、北京工大建国飯店(ホテル)にて買春行為中の黄海波(男:38歳。俳優)を現行犯逮捕した。取り調べの結果、黄海波は買春犯罪の事実を隠さず自供した。16日、黄海波は北京警察署により法に基づいて行政拘禁された。
この情報は、様々な波紋を呼ぶこととなった。俳優の黄海波が買春で拘禁されたという情報が裏付けられると、速やかにネチズンおよび法曹界人士に論議を巻き起こした。注目されたのは、警察が黄海波の犯罪情報を公開したことに対し、プライバシーの侵害ではないかとして、多くの人々による論争が起きたことである。
ここ数日、「法制日報」の記者は多くの法曹界の人物を取材したが、この問題に対する見方は諸説入り乱れ、意見が一致しなかった。プライバシーに該当しない犯罪は公開することが可能と考えるが、買春のようなプライバシーに関わる場合は慎重な態度をとり、みだりに公開すべきではないと述べる者もいた。しかし、警察が有名人の犯罪情報のみを公開し、それがプライバシーに関わらないのであれば、不適切でも違法でもないと述べる者もいた。
これは、有名人の犯罪情報を如何に公開すべきかという注目すべき問題である。「法制日報」の記者は、これについて取材を進めた。
警察の処罰には法的根拠がある
黄海波は、初めて警察が犯罪情報を公開した有名人ではない。これまでにも李代沫(歌手)の違法薬物使用、高暁松(音楽プロューサー)の飲酒運転、孫楊(水泳選手)の無免許運転等が、警察またはメディアの取材によりあきらかにされたか、事件が公開されてきたが、このように大きな論争を巻き起こしたことはなかった。
「法制日報」記者は、黄海波は買春で処分を受けた後、多くのネチズンが不満を述べた点に注目した。黄海波の買春行為に理解を示す者もいれば、黄海波が誰かの機嫌を損ねてはめられたと言う者もおり、はなはだしきは買春が「合意の上」だから、警察は大げさに処分する必要はないとまで言う者もいた。
「黄海波の買春行為に理解を示す者は、通常成年男性には生理的な欲求があるとか、まだ結婚していないから等、人の自然性を考慮している。しかし人の社会性は考慮していない。社会人として法律を守るべきである。特に有名人であれば、その行為は多くの人に影響を及ぼすのだから、より自らの身を清潔にし、法律を守る手本になることを自覚すべきだ。」匿名の警察関係者は、記者にこう述べた。
中国人民公安大学治安学部の謝川豫教授は、他の有名人の犯罪に比べ、黄海波の買春事件に異なる意見が出ているのは、事実上売買春を犯罪と認定するか否かに論争があるためだと見ている。
謝川豫教授は、かつて世界100ヶ国余りの売買春に関する法律を収集し、研究したことがある。明確に売買春を犯罪とする国の数と、売買春を許可するか「歓楽街」を設けて一部合法化した国の数は、ほぼ五分五分であった。「そのため、多くの者は売買春を大したことではないと考えている。」謝川豫教授は、このように述べた。
実際には、売買春は中国の性病、エイズ等の疾病の主な感染ルートであり、著しく婚姻関係を脅かす行為であり、強姦・窃盗・強盗・故意の殺人等の凶悪事件を誘発し、反社会的勢力や組織犯罪をはびこらせることにも繋がっている。
「中国の現行の法律の枠組みで、警察が売買春行為を取り締まり、処分することは厳格な法執行、公正な法執行の現れである。」謝川豫教授は、市民から売買春についての通報があった時、公安機関が警官を出動させ、処理しなかったとしたら、それこそ職務失当であると述べた。
これまで幾度も「法制日報」記者からの取材を受けている法曹界の人物によれば、警察が黄海波の買春を処分したのは法的根拠があってのことだと考えている。ここ数年、警察が多くの有名人の犯罪を処分しているのは、法執行は差別なく平等に行われていることを示し、法の前では誰もが病棟という原則を堅持するためだという。
プライバシーの侵害に該当するか
有名人の犯罪は珍しいものではなく、その多くは警察から開示されたものである。
「警察が高暁松が飲酒運転事件を公開するのは問題ないが、黄海波の買春事件の公開は検討に値する。」北京大成法律事務所の段万金弁護士は、個人のプライバシーや、未成年人等の犯罪事件ではなければ、法に基づいて公開するべきだが、買春は違法行為であると同時に個人のプライバシーにも該当するため、公開すべきではないと考える。
段万金弁護士は、2013年1月1日より施行された的「公安機関が行政案件を処理する手続きに関する規定」により、公安機関および警察が行政案件を処理する際、国家機密、商業上の秘密、個人のプライバシーに該当する場合、秘密を保持しなければならないことが明確にされたと述べる。
また、治安管理処分法は、治安管理処分を行う際、公開かつ公正でなければならないと規定している。段万金弁護士は、ここでいう「公開」とは、警察が処分する時に被処分者が抗告の権利を行使できるようにするため、被処分者に公開しなければならないという意味であり、社会に向けて公開するという意味ではないと考える。
しかし匿名の警察関係者は、黄海波の買春事件公開に対して、こうした言い分は認められないという。その警察関係者によれば、法律は警察が有名人の犯罪情報の公開を軽減しておらず、警察が開示するのは犯罪の事実であり、一般人に比べ、有名人のプライバシーは大きく制限されており、ある意味ではプライバシーはないと言えると述べた。
「一般人に比べ、有名人のプライバシー権、名誉権の保障は著しく低下するものである。しかし、買春での処分は重要なプライバシーに該当するため、公権力がみだりに有名人のプライバシーを公開することが適切か否かは検討に値する。」中国政法大学法学院の何兵副院長は、このように考えている。
副院長は、警察が黄海波の買春行為を証明することは、政府の情報公開の範疇に属すると指摘する。政府の情報公開は、法に基づく行政の促進に有利である。しかし、政府の情報公開条例では、行政機関は国家機密、商業上の秘密、プライバシーという政府情報を公開してはならないことを明確化している。「メディアが警察に黄海波の買春拘禁情報を求められた場合、警察は公民のプライバシーを理由に公開を拒むことができた。」副院長は、こう述べた。
「現在の法律の枠組みでは、買春行為を開示することは違法ではない。」謝川豫教授は、次のように回答した。警察が公開した有名人の犯罪情報を総合的に観察すると、公開されたのは何れも犯罪情報であって、プライバシーではない。黄海波の買春事件を例とすれば、公開されたのは違法情報であり、その性行為の詳細や性的嗜好等の情報ではない。後者こそがプライバシーである。
中国政法大学の李顕冬教授も、買春行為の公開はプライバシーの侵害にはあたらないという立場にある。「いわゆるプライバシーとは、本人が他人に知られたくなく、知られることが不都合な情報である。有名人に対しては、その犯罪を公開することは一般人への教育的な異議があり、社会に利するものであり無害である。」李顕冬教授は、黄海波は買春事件において、警察は違法性のみを確認するだけで、その写真や買春の詳細を公開してはおらず、侮辱的な言葉も使っていないため、権利侵害は存在していないと述べている。
立法・制度化し、事件を公開する
記者は、取材の中で警察が積極的に有名人の犯罪情報を公開する場合、少なくとも2つの面が考慮されていることを把握した。一つは有名人の一挙一動が注目され、速やかに回答するか、積極的に公開することが、あらぬ憶測やデマを減少するか防止することに役立つ場合。今一つは、有名人が典型事例であり、公開することが大きな警告的な役割および法治についての広報効果がある場合。
「警察による有名人の犯罪情報の公開は、法律で明確に権限を授けるべきである。市場主体については、法が禁止しなければよい。政府主体については、法が権限を授けなければだめである。」李顕冬教授は、こう述べる。
中国社会科学院の周漢華研究員は、違法情報は公共の利益に関わるため、公開を原則とすべきであると述べる。法律の規定に基づけば、買春処分情報を含む全ての行政処分決定は、公開であるべきだが、全ての違法情報の公開基準を平等にすべきであるという。
謝川豫教授は、現行の法律では警察が犯罪情報を公開する規定が明確ではないため、立法を完備し、公開のプロセス・範囲・事件の種類等を明確にすることを提案している。
謝川豫教授によれば、米国の大多数の州では売買春は犯罪行為であると立法で明確化している。一部の警察署では、売買春に関わった者の氏名・年齢・カラー写真等の情報を誰もが検索できるようネット上で公開し、常時更新している。
「事件の公開は、関係者を平等に扱わなければならない。これと同時に公開するのは犯罪関連情報のみとし、無関係な情報およびプライバシーは公開すべきでない。」謝川豫教授は、警察が李代沫の違法薬物使用事件を公開する際、全ての関係者と共に公開し、且つ李代沫が「『中国好声音』(中国の人気音楽番組)のオーディションに参加したことがある。」等の事件と無関係な情報はカットすることがより合理的で、適切であると述べた。
こうした事件の公開基準を確保するため、謝川豫教授は立法化して事件公開の審査認可プロセスおよび主体を明確化し、個人には公開権限はないものとし、捜査上の情報は直接公開してはならないと考える。
黄海波の買春事件において、あるネチズンは黄海波が買春で警察に逮捕された際の警察の記録と思われる情報をリークした。アップロードされた写真3枚のうち、1枚は黄海波の「犯罪記録写真」と思われる。他の1枚は捜査情報ファイルの中の電子ファイルと思われる。専門家は、もしこれが事実であれば調査の上で事実を究明し、なぜ秘密が漏洩したのか責任を追及すべきであると述べた。
(法制ネットより)
作成日:2014年06月13日