最新法律動向

労働報酬支払拒否罪、立件数は極少数

この8ヶ月間で労働報酬支払拒否罪で立件された事件は極少数
 2011年5月1日から施行された刑法修正案(8)では、新たに労働報酬支払拒否罪が加えられた。但し、最近8ヶ月間の動向を見る限り、新罪名が適用された事件は数えるほどしかない。

「立法が原則的すぎたため、複雑な対応が求められる賃金欠配問題において、新罪名の適用が困難という事態に陥っている。つまり立法を実際に適用することが難しいか、適用範囲が広くなり過ぎるという問題が生じている。」

西南政法大学刑事司法及び刑事執行研究センターの張光君副主任は、こうした事情があるため、末端の司法機関においては司法解釈が公布されるまで立件を待つかという心理と他の司法機関の出方を見ようという心理が生じており、新罪名の適用が棚上げされているのも無理からぬことだと述べた。

 司法の実務において、悪意として認定することは容易なことではない。2011年末、広東省東莞市第一人民法院の管轄区域にて、悪意の賃金欠配に起因した集団賃金支払請求事件が5件発生した。東莞市第一人民法院研究室の李紅輝主任は、当該事件は何れも適切に処理できたが、このことが喚起した問題は充分検討する必要があると述べた。

社長の悪意による賃金欠配の立証がネックに
 この事件が警察に通報された時、社長は雲隠れして行き先がわからなかったため、当局も社長に対して支払い命令を出すことができなかった。賃金を欠配した者へ刑事責任を追及することは大変難しい。なぜなら労働者は他人の財産を尋問する権利が無いため、賃金欠配者の具体的な資産状況を調べることができず、賃金欠配者が「支払い能力があるのに支払いを拒否している。」ことを立証することができないからだ。

 では、労働者から公的機関に「賃金欠配者は、賃金支払能力を有している。」ことの立証責任を求めることはできるのだろうか。

李紅輝主任は、「もし賃金支払請求者の多くが刑事訴訟プロセスを選択して、本来は民事事件である賃金欠配問題の解決を図ろうとすれば、公安機関の業務量が激増することになるだろう。」と話す。

 現行の規定によれば、悪意の賃金欠配者の被害に遭った者は、先ず現地の政府関連当局へ通報しなければならず、事実が確認された場合、関連当局は支払命令を下さなければならないと規定している。それでも賃金欠配者が支払命令の履行を拒否した時に、公安機関は漸く立件することができ、その後に司法プロセスに入ることができるとされている。

 張光君副主任は、政府関連当局が悪意による賃金の欠配行為を無作為とし、当該罪の司法適用能力を有名無実にしてしまった場合、実情に即した関連する労働行政法及びその実施方法が求められることになるだろうと考える。

 今年1月14日、人力資源社会保障部は、最高人民法院、最高人民検察院、公安部と連名で『労働報酬支払拒否案件捜査・処理業務の強化に関する通知』を公布した。当該通知では、欠配行為者が逃亡した場合、人社部門は、行為者の住所、勤務地、生産経営場所又は建築施工プロジェクト所在地に支払命令書を貼り出す等適切な方法を採用することができると規定している。法に基づいて移送又は労働報酬支払拒否犯罪容疑を処理しない国家公務員については、法に基づいて行政紀律責任を追及する。犯罪を構成する場合、刑事責任を追及しなければならないと規定されている。

 労働報酬支払拒否罪の中に記載されている「著しく悪い結果」及び「金額が多額」という比較的に曖昧な表現は、実務担当部門が、この法律を適用することについてより慎重になっているという。

一般的に、「著しく悪い結果」には、労働者が賃金を欠配されたことにより、疾病を治療する費用がないため障害者になってしまうことや、死亡又は自殺等が含まれる。「金額が多額」とは一体何名の幾ら以上の賃金を基準とするのか、司法機関には判断が難しい。2011年11月、最高人民法院は、『労働報酬支払拒否刑事事件を審理する際に法律を適用することに関する若干の問題の解釈』の意見徴収稿を発表し、労働報酬支払拒否罪の成立条件について細分化を行った。うち、「金額が多額」という点については、以下のように細分化した。支払を拒否されている労働者1名の労働報酬額が5,000元から3万元以上の場合。支払を拒否されている複数の労働者の労働報酬の累計が5万元から30万元以上の場合。同時に、「財産を移転し、逃亡する等の方法によって労働者への労働報酬の支払いを逃れる。」についての具体的な状況を明確化した。これには帳簿又は従業員名簿、賃金支払記録、出勤記録等の隠匿及び廃棄が含まれる。

(法制ネットより)

作成日:2012年02月24日