他人の身分で入社した社員の労災賠償は、誰が負担?
Q:当社は労働力集約型の企業で、1000人近くの従業員を抱えています。会社は従業員の採用、使用においてコンプライアンスを非常に重視し、法に従って労働契約を締結した上で速やかに社会保険を付保し、賃金も期限通りに支払っています。
最近、ある従業員の労災保険金請求の案件が発生した際、労災を負った従業員が入社時に他人の身分証を不正に利用して入社し、保険加入の手続きをしていたことがわかり、労災保険基金による労災待遇の審査において、労災従業員の身分証明と保険加入者の身分証明が不一致であることにより給付を拒否されました。この場合、当該従業員の労災賠償は誰が負担することになるのでしょうか。
A:会社の負担となります。『労災保険条例』第62条により、「本条例規定により労災保険を付保すべきであるのに労災保険を付保していない使用者の従業員に労災が発生した場合、当該使用者は本条例に規定する労災保険待遇の項目及び基準により費用を支給しなければならない」と規定されています。
労災保険基金により保険金の給付が拒否されたのは、当該従業員が他人の身分証を不正利用して入社したことが原因であり、会社側に過失はないとはいっても、国の関連機関より『労災保険条例』等の法律法規が公布された際にも、各方面の要素が総合されて制定されているのであり、使用者は入社手続きの際に必要な真実性審査の義務を履行すべきであるとされていることから、関連する法律の規定により、このようなケースにおいては使用者が賠償責任を負担しなければなりません。
本件は、使用者の入社手続きに不備があったことにより労働者使用コストが増大した典型例であるといえます。実務においては、これ以外に、社会保険料納付、残業手当、病気休暇、職業病等に関する面にはいずれも些細なリスクが潜在している可能性がありますが、こうしたリスクは全て、事前に防止することができるものです。企業では些細な問題を軽視せず、欠点が明らかになることを恐れて入念なチェックを怠ることがないようご注意願います。また、必要に応じて専門弁護士による法的なアドバイスを受けて問題点の是正を行い、リスクを未然に防ぐことで、真のコンプライアンス経営を実現し、不要な労働者使用リスクの発生を回避することができます。
作成日:2021年03月09日