労務管理:年初の賃金調整にあたっての留意点
Q: 今年も昇給交渉の時期となりましたが、会社の業績は不振で、過年度のように昇給するには困難があります。これについて会社ではどのようなことに注意すべきでしょうか。
A: 実務では、企業は毎年年初に従業員に対する昇給を行うのが通常ですが、新型コロナウイルス及び全体的な経済環境の影響を受け、多くの企業で業績不振や欠損の状態となり、過年度のような昇給の実施を会社として負担しきれず、かといって昇給しなかったり、増額幅が過去より小さいと、従業員の心情に影響を及ぼし、勤務態度が消極的になったり、退職又はストライキといった事態も懸念され、いずれにしても企業を悩ませる問題となっています。弊所では、昇給をしなかったことにより従業員がストライキを起こしたケースに何件も対応し、これについて豊富な経験を蓄積しています。
企業にて業績不振により過年度と同様の昇給が難しい場合には、以下のような対応をご検討いただけるかと存じます。
◆企業が賃金調整の決定前に考慮すべき要素
賃金調整案について検討するにあたっては、関連する調査を十分に行う必要があり、頭で考えただけで決定することはできません。調査は、現地従業員賃金の指導金額、政府の公布する賃金指導ライン、ベテラン従業員の必要度等について、弁護士に調査を委託することができます。その後、調査された状況に基づき、企業の経営状況や経済効率、従業員個人の素質等を加味し、昇給するかどうか及び昇給幅を確定することとなります。
◆民主的プロセスを十分に履行し、会社の賃金にかかる団体交渉制度を確立し、会社に代わり弁護士が昇給及び昇給幅についての労働組合、従業員代表の意見を聴取する
民主的プロセスを十分に履行するかどうかは、賃金調整案の成否に直接影響します。会社は労働組合、従業員代表との協議を弁護士に委託して行うことができ、労働組合、従業員代表に対して会社の経営状況の実態や業績等、賃金調整に影響する要素について弁護士から詳細に説明することができます。説得力を増すために、会社の財務諸表等の関連データの提示を検討してもよいでしょう。労働組合や従業員代表の意見を真剣に聞き、従業員側の理解や署名を取り付けるべく努力します。また、民主的プロセスにおける最も重要な取組みとして、弁護士により一定の措置とテクニックを使って労働組合、従業員代表と協議したことの書面の証拠を取得し保管しておくとよいでしょう。
◆昇給の有無及び昇給幅について従業員に発表した後、従業員の様子を注意深く見守り、各種の手段を講じて従業員のサボタージュや感情の刺激を回避する
昇給がない、昇給幅が予想より少ないことにより従業員がサボタージュ、業務放棄、ストライキを起こしたり、過激な場合には日本籍従業員を包囲したりする事態を回避するため、会社の中でも部下と直接接する管理職は、随時従業員の様子を注意して見守り、消極的な感情が見られた場合には、ただちに会社に報告し、従業員との面談を行い、できる限り感情を沈静化させるようにします。大規模な業務放棄、ストライキが発生してしまった場合は、会社より速やかに外部弁護士の援助を求め、弁護士のサポートのもと、迅速に政府機関や上級労働組合等への報告を行い、さまざまな手段を講じて感情的になった従業員をなだめ、正常な生産の秩序を取り戻すことが必要となります。
◆日系企業へのアドバイス:会社定款や社内規則制度の見直しを
昇給するかしないかは、毎年企業が悩む問題ですが、外部の全体環境及び会社の経営状況も非常に重要な影響要素です。企業の定款、規則制度については、これまでも企業が弁護士に委託して見直しを行うよう、弊所から申し上げている通りです。SARSや新型コロナウイルスの流行により、会社の運営が実際に一定の苦境に陥った場合において、どのようにして企業の状況に基づき定款及びそのうちの重要規定を調整するかということも、会社管理において特に重視すべき問題です。
作成日:2021年02月08日