労務管理:従業員の意思による保険加入放棄は有効か
Q: 当社は開発区に位置する日系の製造メーカーですが、工場作業者を新規採用したところ、採用した従業員の一部が社会保険に加入しないことを希望し、これについて会社と書面の承諾書に署名することも受け入れると言っています。そうすれば従業員個人の手取り賃金額が増えることになりますが、従業員の方から提起してきたということで、会社はこの要求を受け入れてもよいものでしょうか。
A: 実務として、従業員が会社による社会保険への加入を希望しないという状況は少なからずあり、特に出稼ぎ労働者や流動性の高い職務に就く者が、社会保険登記の移転が困難なことと、個人負担部分が発生することから、本来会社が納付すべき社会保険料を賃金として従業員に支払うことを望んで会社と協議するということがあります。ただし、『労働法』、『社会保険法』等の規定により、使用者は法により労働者の社会保険を付保しなければならないとされています。つまり、従業員を社会保険に加入させることは法定の義務であり、従業員の意思や希望によって決まるものではありません。このため、従業員が自ら保険に加入しないという承諾書に署名したとしても、そのような行為は法律の強行規定に違反するため無効となります。
◆保険を付保しないリスク
(1)万一労災が発生した場合、使用者は労災・医療費等の賠償責任を免れない。
(2)『労働契約法』第38条の規定により、使用者が労働者の社会保険を付保していない場合、労働者はこれを理由に労働契約を解除でき、企業に経済補償金の支払いを要求することもできる。
(3)従業員の社会保険を付保しなかったために定年退職後に養老保険金を受給できなくなった場合、従業員は会社を相手取り相応の損害賠償を求め訴訟を提起することができる。
(4)従業員の考えが変わって社会保険料の徴収機関に苦情を申し立てた場合、機関より企業に期限を定めて追納を命じられる。期限を過ぎて納付しない場合、企業の直接責任者に延滞金を加算した罰金が科される。
◆企業の留意点と対応
(1)従業員の採用段階において、従業員が社会保険加入に同意しないことを不採用条件の一つとし、採用後に会社の労力が費やされることを回避する。
(2)すでに採用している従業員からそのような要望を受けた場合は、断固として同意しない。
(3)社内の従業員の中で類似する承諾書、協議書等を締結している者がいないか迅速に確認し、もし該当者がいる場合、弁護士に委託して従業員と交渉し、社会保険の加入手続きを完了する。保険料の追納が発生する場合、延滞金の部分については、従業員の負担又は会社と従業員の折半負担とする(青島中級裁判所の判例では折半負担を支持)。
(4)弁護士に委託して所管政府機関と対応の適法性及び保険料追納、行政罰等について協議、交渉し、政府機関の理解と支持を得る。
(5)必ず弁護士のサポートのもと会社の規則制度を改善し、社内の各規則制度が適法で抜け穴のないようにし、類似リスク、事件発生を制度面から徹底回避する。
(6)従業員向けの各種法律セミナーを実施し、従業員の法令遵守の意識を高める。
作成日:2021年01月05日