法律相談Q&A

忘れがちな董事の変更手続きは完了していますか

Q: 感染対策期間中に会社の董事を変更する場合、どのようなことに留意すべきでしょうか。

A: 弊所では日系企業の董事変更や留任の実務に対応することが多く、中には複数の董事を変更したり数期連続で留任するというケースもあります。社内で相応の決議や任命派遣のプロセスを履行していても、さまざまな原因(中国の政策や法律規定への理解不足や担当者の怠慢等)により、政府機関に出向いての届出手続きが行われていない場合があります。
   関連規定により、董事を変更するか、任期満了後も留任する際には、社内の決議や任命派遣のプロセスを履行する必要があるだけでなく、所管登記機関に出向いて届出手続きを行うことも必要となり、これらの届出手続きは変更や留任から30日以内に行わなければなりません。前述のような状況のもとで届出手続きを行っていないと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

1.決議が認可されないリスク
   会社の董事を変更して政府機関での届出手続きを行っていなければ、その「任命」手続きは実際には完了されていないということになります。そうすると、そのように組成された新たな董事会によって行われた決議は、外部に対する効力に瑕疵が存在し、政府機関に提出しても認可されないリスクがあります。

2.罰金に処せられるリスク
   会社の董事変更又は任期満了後の留任について、会社が政府手続きを行わないことは違法にあたり、罰金に処せられるリスクがあります。

3.もとの董事が引き続き責任を負うことになるリスク
   変更前の董事は社内決議により董事の職務を解任されても、政府手続きを行っていないと、その「解任」手続きは実際には完了されていないことになり、依然「会社董事」として認定されてしまう可能性があります。その場合、もとの董事が会社の一部の違法又はコンプライアンスに反する行為についてなお相応の責任を負うことになる可能性があります。

4.中国籍のもとの董事に立場を利用されるリスク
   実務において、中国籍のもとの董事(中外合弁企業ではこのような例も多い)がそのような「抜け穴」を利用し、もとの董事が解任/離職後もなお会社名義で外部からの借入れ、協議締結等を行い、会社が不利な結果を被ることがあります。

◇日系企業へのアドバイス
   日本の本社や現地法人で、董事の変更手続きを忘れてしまうということがしばしばありますが、董事の任期が満了する際には必ず遅滞なく手続きするよう、また今現在の特殊期間中に会社の董事等を変更する場合も、速やかに届出手続きを済ませるよう、特にご注意いただく必要があります。感染対策のために手続きに出向くことが難しい場合は、専門の弁護士に代行を委託することも可能です。弁護士による代行をお勧めする理由は以下の通りです。

(1)秘密が保持されます。董事等を変更する場合、所管政府機関に董事のパスポート等の情報を提供する必要がありますが、秘密保持は弁護士の職業上の要求の1つであり、これは多くの日系企業にもよく懸念されている点でもあります。
(2)各企業によって異なる状況や任命派遣者の違いにより、留意すべき事項も異なります。これについて、弁護士ならば各者の具体的状況及び新任董事の情報に基づき総合的に確認することができます。
(3)手続きする際、所管政府機関より質問を受ける可能性があり、例えば上述したような手続きの漏れがあった場合や任命文書等について、弁護士であれば法律の専門知識やテクニックを運用して所管政府機関との臨時交渉を行うことも可能です。

   上記は董事のみを例として簡単にご紹介しましたが、実務においては会社の董事だけでなく、法定代表者、監事、総経理等の変更又は任期満了後の留任が発生した場合にも、同様に相応の政府手続きを履行する必要があり、これを行わないと上述のようなリスクが生じることになるため、日系企業各社で特にご留意いただければと存じます。

作成日:2020年08月27日