立証責任の義務付け
Q: 『民法典』により、汚染物質排出企業自身が環境汚染について責任がないことを立証しなければならないと規定されているそうですが、汚染物質を排出している企業ではどのように対応すればよいでしょうか。
A: 中国の環境保護規制が日増しに厳格化される中で、現地法人では常に環境保護関連の法律の変化に神経を尖らせています。
2021年1月1日から施行される『民法典』第1230条では、環境汚染、生態破壊にかかる事件において「立証責任の倒置」を適用することが規定されています。これは、権利侵害者である汚染物質排出企業が、責任を負担しないか、責任を軽減する事由に該当すること、また企業の行為と損害の間には因果関係が存在しないことについて立証責任を負うというものです。企業の立証に、より高い要求が設けられ、企業は自ら潔白を証明できなければ権利侵害責任を負い、損失を賠償し、環境の修復を行わなければなりません。
◇企業による立証責任負担の根底にあるロジックは、権利侵害者と被侵害者の立証能力の不均衡である
民事訴訟は一般に「主張する者が立証する」原則で実行されています。その意味するところは、事件の事実及び請求が一方の当事者から提起されたら、その当事者が主張する事実や請求について証明責任を負うべきであるというものです。ただし、環境汚染の権利侵害事件において、権利侵害者は通常大企業で、被害者側は個人となることが多く、この場合なお「主張する者が立証する」原則を適用すれば被害者にとっては明らかに不利となります。双方の立証能力の不均衡への配慮に基づき、類似する環境汚染、生態破壊の行為を抑止し、未然に防ぐために、環境汚染事件については特別に「立証責任の倒置」が適用されています。
◇「立証責任の倒置」のもと、企業の環境保護対応においては事前、事中、事後における全過程管理が必要となる
汚染物質排出企業として、生産経営活動を行う過程で、汚染物質の排出について負担させられる可能性のある環境損害賠償責任を回避するために、企業では法令の要求により以下3段階において適切な対応を取る必要があります。
事前:企業が汚染を生じるプロジェクトを新たに実施する際、環境アセスメントや環境保護施設の建設を適切に行い、プロジェクトがもたらしうる環境への影響やリスクについて十分な事前評価を行う。
事中:生産過程では、汚染物質排出許可管理制度の要求に従い、法に則って汚染物質を排出し、汚染物の排出データの整理、資料の保存を適切に行い、突発環境事件の緊急対応マニュアルを作っておく。
事後:汚染事故が発生してしまった場合は、次のように対応する。
・ただちに緊急対応措置を取り、汚染をコントロールする。
・速やかに所在地の環境保護行政所管機関やその他関係機関に報告し、関係機関の調査処理に協力する。
・汚染による危害を受ける可能性のある企業や住民への通知を行う。
・事故がもたらす損害を低減し、生態環境への影響を抑える。
◇日系企業へのアドバイス
環境汚染事件は民事賠償責任に関わるだけでなく、情状が重大な場合には、現地法人の法定代表者及び主要責任者が刑事責任を問われる場合もあります。このため、現地法人と日本本社で、環境保護の意識を高めることが極めて重要です。
今回は汚染物質の排出企業の対応について簡単にご紹介しましたが、排出企業の状況はそれぞれ異なり、企業の実状を踏まえて総合的に検討し対応することが必要となるため、ご関心のある方は弊所にお問い合わせください。また、環境汚染は複雑で専門的な法律問題に関わるため、必要に応じて弁護士にサポート対応を委託することをお勧めいたします。
作成日:2020年08月27日