法律相談Q&A

従業員が服務期間の約定に違反した場合、企業は違約金の支払いを求めることができるか

Q:日系企業の当社では、従業員1名を外部地域での研修に参加させる予定です。費用がやや高いため、従業員と服務期間を約定することを考えていますが、可能でしょうか。また、従業員が服務期間の約定に違反した場合、当社より違約金の支払いを求めることはできますか。

A:『労働契約法』第22条の規定により、労働者が服務期間の約定に違反した場合、使用者は労働者に違約金の支払いを求めることができるとされています。ただし、双方間で紛争が発生した場合、服務期間に関する約定の全てが法的拘束力を持つとはされていません。実務において、服務期間及び関連する違約金の約定に、労働仲裁委員会や裁判所からの支持が確実に得られるようにするために、以下の点に留意して関連証拠の準備を事前に行っておく必要があります。

1.従業員と約定する服務期間にかかる違約金の条項に支持が得られるかどうかは、司法の実践において、以下に重点を置いた審査と判断によって決まるのが通常です。

(1)企業が従業員のために特別研修費用を支給したかどうか。

特別研修費用には、会社が支給する研修費用のみならず、研修により発生し、その従業員のその他直接費用として用いられる出張旅費、宿泊費等が含まれます。特別研修費用がなければ、服務期間の制約も存在しません。このため、企業は特別研修費用に関する領収書等の支払証憑の保管に留意する必要があります。

(2)企業が従業員に手配する研修が、専門技術研修にあたるかどうか。

ここでいう「専門技術研修」とは、専門知識や職業技能の研修を指し、就業前研修、職業訓練等、一般労働者が入社前に受ける研修や、共通性の知識や技能の研修は、これには含まれません。このため、企業では研修の内容が専門技術研修に該当することに関する証拠を保管しておくよう、留意する必要があります。

(3)約定する違約金の金額が、適法で合理的かどうか。

 ①法律規定により、違約金の総額は、企業が当該従業員のために手配する特別研修費用を超えてはならないとされています。

 ②従業員が研修を修了した後企業でしばらく勤務していたものの、約定した服務期間が終了するよりも早く離職する場合、従業員が負担すべき違約金は、残りの服務期間に相当分の特別研修費用を超えてはならないとされています。

2.実務において、多くの企業で(特に外資系企業で)従業員への専門技術研修が行われており、その目的は、研修を通じて従業員が企業の経営活動によりよく適応し、企業のためにより大きな価値を創造してもらうことにあります。企業が高額の研修費用を支出した後で、従業員に転職されてしまうことを可能な限り防止するために、企業がコストを支出し、従業員に専門技術研修を手配するにあたり、以下の点に留意するとよいでしょう。

(1)適格な研修参加者を選ぶ。

 ①従業員の勤務態度を観察し、積極的に業務に臨んでいるか、自身の担当業務及び企業の現状に満足しているかを判断する。

 ②従業員の過去の職歴から、頻繁に転職を繰り返していないかを見て、その企業で長期にわたって勤務してくれるかどうかを分析する。

 ③その企業で既に一定期間(例えば3年以上)勤務している従業員を選び、試用期間中の従業員はなるべく選ばないようにする。

(2)従業員に研修を手配する前に、従業員と完全な研修協議書を適法に締結しておき、上記の研修費用や研修内容に関する証拠は適切に保管する。

 ①協議の中で、研修の費用及び服務期間について明確に約定し、服務期間は研修費用の多寡や、研修時間の長短に応じて合理的に確定する。約定が明らかに公平性を欠いていると、法律の支持が得られない場合もある。

 ②服務期間の起算時点を明確にしておく。実務では、研修の終了した日を服務期間の起算時点とすることが多い。

 ③違約金の金額について合理的に約定し、協議書の中に、研修費用の項目内訳及び金額を明確に約定しておく。

 ④各種の研修費用や研修内容の関連証拠を適切に保管する。

作成日:2019年02月14日