競業制限違反の立証問題
Q:青島にある日系企業です。最近、昨年離職した高級管理職が、当社と競争関係にある別の会社で勤務していることがわかりました。当該従業員は、当社と「競業制限協議」を締結しており、競業制限期間は2年間となっています。当社としては当該従業員の法的責任を追及したいところですが、どのようにすれば競業制限義務への違反を証明できるでしょうか。また、どのような証拠を収集する必要があるのでしょうか。
A: 一般に知られている通り、競業制限は会社が営業秘密や技術上の秘密を保護する重要な手段であり、従業員が競業制限に違反した場合、会社は従業員に違約金の支払い、損失の賠償、経済補償の返還を求める権利を持つほか、競業制限協議の履行継続を従業員に要求することもできます。ただ、司法実践においては、会社が従業員に対してこれらの権利を主張する際、立証困難の問題に直面するということがよくあります。
立証に関する問題を考える前に、労働契約を解除又は終了した後、会社が約定通りに従業員へ経済補償を支払ったかどうかを確認しておく必要があります。会社側の原因で経済補償を支払わないまま3カ月が経過していれば、従業員には競業制限の約定を解除する権利があります。
従業員の競業制限違反の証明については、従業員が別の会社(以下、「新会社」という)で新たに労働契約を締結しでおり、その会社と元の勤務先の会社(以下、「元の会社」という)に競争関係が存在しているという事実を証明することが重点となります。
1.従業員と新会社に労働関係が存在することの証拠には、通常以下のようなものがあります。
(1)社会保険料の納付記録
社会保険料の納付記録は、従業員と会社の間に労働関係が存在することを証明するためによく用いられる証拠です。ただし、社会保険機関は従業員本人以外の企業や個人からの社会保険情報の照会を受付けず、弁護士の照会にも応じることはありません。このため、この証拠については、会社より司法機関に調査取得を申請することが必要となります。
(2)個人所得税の源泉徴収記録
社会保険料の納付記録のほかに、従業員の個人所得税の源泉徴収納付記録の取得を司法機関に申請することも可能です。
(3)新会社の工商登記資料
競業制限義務を負う従業員が、転職先の新会社においても引き続いて重要な職位に就くというケースは多く、工商局の登記資料には新会社の責任職にある従業員が公示されるため、そこから従業員の情報を知ることができます。
(4)新会社のウェブサイト、パンフレット、広告、メディア報道等における従業員に関する記載
例えば、従業員が新会社の代表として出席する大規模なイベントや、新会社がウェブサイトやマスコミを通じて行う宣伝活動等。
(5)従業員が元の会社の顧客と商業活動を行うことで生じる証拠
従業員が元の会社の顧客との連絡を維持しており、新会社の代表としてビジネスの活動に参加した際に新会社の名刺交換を行い、パンフレットを渡したりする可能性があるため、元の会社は顧客を通じて従業員の情報を調べ、関連の証拠を収集することができます。
2.競争関係の証明に関して
現在中国で現行されている法令、司法解釈では、会社間の「競争関係」の認定基準に明確な規定が設けられていないため、ここでは実例を検索することにより、裁判所が「競争関係」を認定するにあたって考慮される要素を以下にまとめました。
(1)新会社は、元の会社で従業員と約定する「競争関係のある企業・組織」であるかどうか。
(2)新会社と元の会社の経営範囲が共通していたり、類似しているかどうか。
(3)新会社と元の会社が、同一業界において共通の、又は類似する業務の経営に従事しているかどうか。
(4)新会社と元の会社の顧客がどの程度重複しているか。
(5)新会社と元の会社の製品やサービスの種類がどの程度重複しているか。
会社で留意して収集すべき証拠としては、新会社の営業許可証又は工商情報、新会社の製品やサービスの宣伝資料、会社のウェブサイト、会社についてのマスコミ報道などがあります。
作成日:2018年06月21日