最新法律動向

複数の都市で最低賃金基準引き上げへ

本年度から、上海市、天津市、深セン市、山東省等、多くの都市で最低賃金基準が引き上げられました。弊所が把握している情報だけでも、既に十数箇所の都市で最低賃金基準が引き上げられているようです。今回は、最低賃金基準について簡単に説明申し上げます。

「最低賃金基準」とは何か

 労働者が法定の勤務時間又は法に基づいて締結した労働契約に約定された勤務時間の中で正常な労働を提供したという前提において、使用者が法に基づいて支払うべき最低労働報酬のことです。

最低賃金基準の規定について

1.労働者の次の賃金待遇は、最低賃金を下回ってはなりません

①労働者が正常に労働を提供している期間の賃金

②労働者の試用期間中の賃金

③労働者の原因によらず操業停止、製造停止する期間が一賃金支払周期を超え、なお且つ労働者が正常に労働を提供している場合

④時間外勤務賃金の計算・支給基数

2.最低賃金には、次の項目は含まれません

①時間外勤務賃金

②特殊な勤務環境(高温、有害有毒等)への手当

③会社負担分の社会保険料、住宅積立金

④法律、行政法規及び国の定める労働者への福利待遇等

最低賃金に社会保険料及び住宅積立金の個人負担分が含まれるかどうかについては、地方によって扱いが異なっています。

 ◇日系企業の皆様に、ご留意いただきたい点

最低賃金の理解と取り扱いについて、次の事項は実務で誤解が生じやすいため、ご留意願います。

(1)企業は如何なる手順も踏まずに、最低賃金基準で賃金を支払う決定を行なえる

関連する法律の規定によれば、使用者は生産経営に困難が生じた等、特定の理由の場合のみ、最低賃金基準で賃金を支給することができます。また企業内部で民主的なプロセスを履行し、当該企業の労働組合からの同意を取りつける必要があります。更に、労働保障行政機関へ報告する義務もあります。上記のプロセスを履行せずに最低賃金基準で賃金を支給した場合、労働機関から行政処分を受ける可能性があります。

(2)企業が当該企業の賃金が最低賃金を下回っていないかどうかを調べる際に留意すべき点

上で述べたように、最低賃金には、時間外勤務賃金等の待遇は含まれません。このため、使用者が当該企業の賃金が最低賃金基準を下回っていないかどうかを調べる際には、規定に基づいて時間外勤務賃金等を差し引く必要があります。実務において、一部の企業が支給する賃金は、最低賃金を上回っているものの、時間外勤務賃金を差し引いた後では最低賃金を下回っている場合があります。こうした状況も、最低賃金基準に関する規定に違反しています。

 弊所が把握しているところによりますと、一部の都市では最近数年、毎年最低賃金基準を調整しているとの事です。以上の事項を考慮し、各企業に置かれましては所管機関の最低賃金基準に関する動向に着目していただき、企業内の賃金規定、労働契約の約定、具体的な賃金の支払等の事項にコンプライアンス審査を行い、出来る限り違法と認定されるリスクを抑えることを、お勧めいたします。

作成日:2017年07月21日