簡易登記登録抹消が全面的に実施される 企業の撤退手順も簡素化!
『会社法』等の現行の法令に基づけば、企業の登録抹消手順は複雑で、長い時間を費やすことになるため、企業の撤退にかかるコストは高額でした。そのため企業の撤退効率を上げ、企業の撤退にかかるコストを引き下げるため、国家工商総局は2015年4月から順次上海浦東新区等、一部の都市において簡易登録抹消のパイロット業務を展開してきました。そして2016年12月16日に、各地のパイロット業務の経験を総括したうえで、国家工商総局は『全面的に企業簡易登記登録抹消を推進する改革に関する指導意見』(以下『指導意見』という。)を公布しました。この『指導意見』によれば、2017年3月1日より中国全土の範囲で企業の簡易登記登録抹消手順が実施されることになります。ここでは、この簡易登記登録抹消制度を簡単に解説いたします。
1.簡易登録抹消と一般登録抹消手順の主な違い
『指導意見』は、国家工商総局が公布した工商局システム内の登録抹消制度の改革に関する文書です。『指導意見』からは、一般的な登録抹消手順と比べて、簡易登録抹消手順は手順と書類のいづれにおいても大幅な簡素化を読み取ることができます。所要時間とコストも、これに呼応して減少します。
(1)手順について
一般登録抹消の手順
では、商務局、税務局、税関、外貨管理局等の政府機関での手続を完了した後でなければ、工商局で登記登録抹消手順を行うことはできませんでした。
しかし簡易手順では、『指導意見』の「国家企業信用情報公示システムを通じて簡易登記登録抹消を申請しようとする企業は、関連する情報を同級の税務、人力資源社会保障等の機関、商務機関へ送り届ける」及び「今後は、納税完了証明書を提出しなくてもよくなる」等の関連規定により、税務機関、商務局、税関、外貨管理局等の政府機関での登記登録抹消手順も簡素化される可能性が予測されます。これに呼応して簡素化されるかどうかや、どのように簡素化されるかについては、その他の政府機関が公布する文書により、具体的な実施方法が決定されることが待たれます。
(2)準備する書類について
一般登録抹消手順では、工商局へ清算報告書、投資家による決議書、納税完了証明書、清算組届出証明書、清算公告の掲載された新聞のサンプル等、多くの書類を提出する必要がありました。しかし簡易手順では、工商局に「全投資家による誓約書」、「申請書」、「委任状」の3つの書類を提出するだけで良くなりました。
(3)手続にかかる時間について
一般清算登録抹消手順は、スムーズに運んだ場合でも通常は1年から1年半の時間がかかりました。しかし簡易登録抹消手順では、スムーズに運べば約2ヶ月の時間しかかかりません。具体的には前の(1)で述べた税務局等、その他の政府機関の簡素化の程度にかかっています。
2.簡易登録抹消手順の適用される範囲
簡易登録抹消手順は、けして全ての企業に適用されるものではありません。当該手順は、主に次の3種類の企業に適用されます。次の適用範囲に該当する企業は、一般登録抹消手順を適用するか、それとも簡易登録抹消手順を適用するかを自主的に選ぶことができます。
(1)営業許可証の交付を受けたものの、まだ経営活動を行っていない企業
(2)登記登録抹消を申請する前に債権債務が発生していない企業
(3)既に債権債務の精算を完了している企業
(4)裁判所による強制的な清算手順を終了したか破産手順が終了している企業
上記の適用範囲の規定のほか、『指導意見』では8種類の簡易登録抹消手順が制限を受けるケースについても明確化しています。これには国が参入特別管理措置(ネガティブリスト)を実施することを規定している外資系企業、企業経営異常名簿に掲載されるか、著しい違法により信用を失墜した企業リストに掲載された場合、株式を凍結されたか、質権を設定されたか、動産に抵当権を設定された等のケースが含まれます。このため、簡易登録抹消手順の適用を受けたい企業は、申請前に上記の制限を受ける事由についての調査を行い、こうした制限事由を取り除いておく必要があります。
3.簡易登録抹消手順の基本的な流れ
上記の適用範囲に合致する企業は、次の流れに基づいて簡易登録抹消手順の適用を申請できます。
(1)企業が国家企業信用情報公示システム「登録抹消簡易公告」の専用コーナーを通じて簡易登記登録抹消の申請を予定していることと全投資家の誓約書等の情報(強制的な清算公告が終了しているか、破産手順が終了している企業を除く)を自ら公告します。公告期間は、45日間です。
(2)企業が公告を行うと同時に、登記機関は国家企業信用情報公示システムを通じて企業が簡易登記登録抹消を申請しようとしている関連情報を同級の税務機関、人力資源社会保障等機関、商務機関(外資系企業に関連する場合)へ送り届けます。
(3)公告期間中、利害関係者及び関連する政府機関は、国家企業信用情報公示システム「登録抹消簡易公告」専用コーナーの「異議申立」機能を通じて異議を申し立て、なお且つ簡潔に理由を陳述することができます。
(4)公告期間が満了しても異議を申し立てられなかった企業に対して、登記機関は3業務日以内に簡易登記登録抹消許可決定を法に基づいて下す必要があります。また公告期間中に異議を申し立てられた企業に対し、登記機関は3業務日以内に簡易登記登録抹消不許可決定を法に基づいて下す必要があります。
4.簡易登録抹消手順を適用する投資家が留意すべき点とその予防
前に述べた「簡易登録抹消手順」において提出する重要文書の「全投資家による誓約書」は、政府機関が監督管理を実施するうえでの重要な根拠となります。当該「誓約書」で、投資家は、「当該企業は、登記登録抹消を申請する前に債権債務が発生していないか、既に債権債務の精算を完了し、未精算の費用、従業員の賃金、社会保険料、法定の補償金及び未納税金及びその他、未解決の事務は存在せず、清算業務は全て完了しています。」と誓約する必要があります。
(1)企業が簡易登記登録抹消手順を行う過程で事実を隠しているか、虚言を弄した場合、登記機関は法に基づいて登記登録抹消を取り消し、企業の主体資格を回復する等の処理を行うことができます。また利害関係者は、民事訴訟を通じて権利を主張することができます。
(2)悪意をもって企業簡易登録抹消手順を利用して債務を逃がれようとするか、他人の適法な権利を侵害した場合、利害関係者は民事訴訟を通じて、投資家へ民事責任を主張することができます。また、投資家が法律、行政法規に違反し、犯罪を犯した場合、法に基づいて刑事責任が追及されます。
簡易手順では、手順が若干簡素化されるものの、『会社法』 の規定に基づく株主の清算義務に変更はありません。そのため簡易手順を申請する前に、企業に未処理の債権債務がないかどうか詳しくチェックする必要があります。これには従業員に支給すべき経済補償金等の労働債務、税務機関に納付すべき税金、社会保険機関へ納付すべき社会保険料、取引先に支払うべき商品代金、違約金等が含まれます。したがいまして、簡易手順を申請される前に、企業は全面的な法務デューデリジェンス調査と財務デューデリジェンス調査を行い、債権債務がない状況であることを確認してから、簡易手順を行うことを、お勧めいたします。こうすれば投資家は上記のリスクを有効に予防できるだけでなく、可能な限り簡易手順の公告期間中に第三者から異議を申し立てられないようにし、スムーズに簡易登録抹消手順を終えるようにできます。
作成日:2017年02月21日